分類:よもやま話

工作用と検査用

 ゲージには「工作用」と「検査用」の区別があります。
 本来の使い方としては、「工作用」ゲージでワークの加工をコントロールし、出来上がったワークについて、「検査用」ゲージで検定して合格品であることを確認して出荷に至るというわけです。

 1997年以前、即ち、現行の「JIS B 7420 -1997」(これを「現行JIS」もしくは「新JIS」と呼んでいます)以前の、改訂前のJIS規格(これを「旧規格」と呼んでいます)では、もちろん、「工作用」と「検査用」のそれぞれについてゲージの製作公差が規定されており、当然、メーカー側としては工作用として製作するのか検査用として製作するのかは事前の必須な確認事項であったわけでした。

 しかしながら、現行JISでは、ゲージの製作公差は工作用ゲージのみが規定され、検査用ゲージについては規制から外されています。
 なぜ規制から外されたかという理由・事情というものは、おそらくは推測の域を出ませんが、1997年の現行JIS規格の改訂に際して、IT5級用ゲージの製作公差の規定も外されたわけでしたが、その理由として「IT5級用ゲージの製作公差を規定しても、実際にはメーカーは製作能力がないだろうから、意味がない」ということのようでしたから、同じ理由でもって「検査用ゲージの製作公差を規定しても、メーカーにはその製作能力がないだろうから、規定する意味がない」という次第であったように思えます。
 この新JISの改訂に際して何が改訂されたかといえば、ISOにも準拠するという目的はあったわけでしたが、ゲージの製作公差の点から言えば、例えば、基準寸法18-30mmのハサミゲージで、IT6級を見ると、旧JISではゲージの製作公差幅は2.4μmでしたが、現行JISでは4.0μmに拡張されています。
 このゲージの製作公差の寸法許容幅を拡張した分はそのワーク側の加工許容幅を狭めたわけですから、一般にワークの機械加工をするユーザーの負担において、ゲージ・メーカーの製作能力の不全を救済したとも言えるわけです。

 しかしながら、IT5級用ゲージの需要は変わらずにあるわけですし検査用ゲージの需要もあるわけで、それに対して十分に対応できるゲージ・メーカーも現にあるわけですから、上述した現行JISを規定した「日本工業標準調査会」の審議での現状認識が正しく妥当なものであったかどうかが問われるわけです。
 そういった「批判」はともかく。

 IT5級用ゲージの製作要求があった場合、現行JISの規定外ですから、旧JIS規定が引き続き有効性を残続させているという理解、同時に、検査用ゲージの製作要求に関しても同じ考え方で、対応しています。

 「日本工業標準調査会」の審議で表面化した、従前の、「IT5級ゲージ」なり「検査用ゲージ」のゲージ製作公差を充足でき得るメーカーはないだろうという割り切りは、その審議に加わっていたゲージ・メーカがハサミゲージに関しては内製していないようですから、ゲージの製作技術・技能が見えなくなっているという実情を反映していたのではないかと思えます。
 特に、ハサミゲージの製作技術・技能は、関西で言えば「大阪陸軍造兵敞」での製作技術・技能が公の権威でもって確立されましたから、いわゆる「鋳物製ラップ工具+WA砥粒+ラップ油」という遊離砥粒ラップ/湿式の技法が総てであるかのように後進の育成にも適用されたわけでした。しかしながら、この方法でしかゲージ製作は出来ないかという疑問は、つまり、他の技法の適用の可能性は、その当時でも十分に意識され検討されたはずでしたが、もっとも簡便な方法であり、同時に、ゲージ工の養成が容易であるという事実は、戦時下の社会状況の下では、とにもかくにもその技法に依拠されたわけだったでしょう。

 この技法が、戦後に世代継承されて行くにつれて、個々の「改善」とか「独自な工夫」によって、却って遊離砥粒ラップ/湿式の技法の「限界」が露呈してきたわけです。
 だから、現役のゲージ職人の技術・技能が承継できないとか、あるいは、特殊なゲージ材質(例えば、SKS2/SKD11/ハイス/超硬)に対してはそのままでは対応できないとか、いろいろな問題を抱え込むことになりました。
 
 ゲージの製作技術・技能は「ハンド・ラップ」という技能に集約されますが、その再構築が必要なわけです。