分類:ダイス鋼製ハサミゲージ

ダイス鋼製ハサミゲージの特質

その特質の第1は、ナマ材の状態でも非常に丈夫な材料であるということにある。ナマ材の硬度をHRcで計測すると、HRc16~18となっている。いわゆるSK工具鋼の場合では、ナマ材の硬度はHRcでは0以下で測定値としては出てこないから、硬度の差は歴然としている。
この差はどういうところに現れてくるかというと、ブロックゲージでハサミゲージの寸法を検証する場合、一般のSK工具鋼製の場合にはその母材の「弾性」に影響されて、±0.5μmの寸法差がうまく読み取れない場合が生起するのだが、ダイス鋼製の場合は、そのような曖昧さに左右されることなく、±0.2μmの寸法差がきちんと読み込める。±0.5μmとか±0.2μmとか言ってみたところで些少なことだから、ゲージの精度条件を大きく左右するものではないだろうと評する向きもあるのだが、この点を無視して「鏡面」とか「リンギング」といった論点は成り立たないから、いっそう高精度なハサミゲージを需めるユーザーにとっては決して看過し得ない材料特性である。
もちろん、改めて指摘するまでもなく、金型材料として旧くから採用されてきていた材料であるから、ハサミゲージの材料としての適否が更に問題になるということは有り得ないことである。

その特質の第2は、焼き入れ処理した場合の耐摩耗性がSK工具鋼と比べて2~3倍とされている。
通例、工具鋼の耐摩耗性とは、その焼き入れ硬度によるとされ、焼き入れ硬度の高低はそこに含まれるカーボン量によるとされているのだが、ダイス鋼の場合は、SK工具鋼とほぼ同じHRc60の場合であっても、その硬さはマルテンサイトではなくてクロム炭化物の硬さであり、バナジウムの効用がもたらす耐摩耗性である。
ハサミゲージが適用されるワーク加工物にクロム鋼その他の特殊鋼素材の比率が高まり、ハサミゲージの耐摩耗性への要求レベルが上がって来ている現在、旧前のSK工具鋼製では事態の改善が図れないことは言うまでもない。

耐摩耗性に秀でているということは、別な言い方をすれば、ラップ加工が非常に困難な材料であるということである。実際、旧前のハサミゲージの製作技法であるWA砥粒を用いた遊離砥粒ラップ/湿式の技法では全く歯が立たない。
もっとも、ダイス鋼よりも硬度が高い超硬に対しては、この遊離砥粒ラップ/湿式の技法が十分に通用するので、SK工具鋼製には満足しないユーザーに対しては超硬製が提供されてきてはいる。技法の違いが歴然としているから、超硬製ハサミゲージの製作ができるゲージ・メーカーが、ダイス鋼製ハサミゲージを製作出来るかと言えば、直ちには出来るということにはならないだろう。

その特質の第3は、ダイス鋼は言い替えると12%クロム鋼だから、非常に錆びにくい材料であると言える。
ステンレス鋼の場合、13%クロムからステンレスと言える耐銹性を発揮するようになると言われているのだが、ダイス鋼の場合にもステンレス鋼と同じような傾向性を帯びると言えるような感触を持っている。
いわゆるステンレス鋼の「自己修復性」の問題であって、ステンレス鋼の表面で防錆能力を発揮しているのが酸化クロム層なのであるが、この酸化クロム層が物理的に破壊された場合でも新たに生成される酸化クロム層で補充されるということを意味するのだが、ダイス鋼の場合も同じような傾向性を指摘できるのではないかと考えている。例えば、ブロックゲージをゲージの校正等に使用して表面に微細な傷が入った場合でも、当初は鮮明な傷も、経時的に徐々に薄れていくことが視認できるわけである。

その特質の第4は、経済性の問題である。
ユーザー(購入者)にとっては、丈夫で摩耗せず錆もせずに寸法変位もきたさない(形状安定性が秀逸)という利点があるのだが、ハサミゲージ・メーカーにとっても、適切な加工・仕立て上げ手段を準備することによって、SK工具鋼製の場合とほとんど変わらない製作効率が実現できる材料なのである。
ダイス鋼製ハサミゲージの採用・購買によって、コストは劇的に下がる。

従って、結論的には、SK工具鋼製ハサミゲージは、「終わった」のである。