1. キー溝幅ゲージとは?

いわゆる「キー溝」の幅を検証する検証するためのゲージなのだが、一般的な幅ゲージに対して特別なワークに対応した仕様のゲージである。

幅を測るという場合、ブロックゲージを直接差し込んでも寸法計測はできるのだが、その場合、ブロックゲージの損耗が避けられないから適切とは言えない。ただ、それ専用のブロックゲージを用意して、ホルダーを作って固定するようにすれば、わざわざキー溝幅ゲージを製作するよりも安価で済む場合がある。
あるいは、両口の栓ゲージで寸法検証に当たるということも出来る。
内測用(内幅用)マイクロメータで測定するということは普通に行われているのだが、明確な合否判定という必要の場合には、やはり、限界ゲージを活用するというに越したことはない。

キー溝幅ゲージの仕様について、特にJISで規定されているわけではないので、どのような仕様が便宜であるかについて、ユーザーとメーカーの間で協議すればいいのだが、ゲージ測定部の「幅」や「長さ」について無駄に大きくされる事例もあるのだが、無駄は高コスト化への里程標になってしまう。

従って、別紙にあるように、一般的な需要に対応できるように、独自に仕様を定めて、何をどのように製作するかを事前に明らかにするようにしている。

材質はハサミゲージと同様にSKD11(日立金属(株):SLD)。

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キー溝幅ゲージとは?:図1

焼き入れをした段階 


2. キー溝幅ゲージの製作技法

フライス盤で基本形状仕様を切削して成形する。
この場合、測定部については、仕立て上げるべき寸法に対して+0.25~+0.35位の余裕を持たせる。通常、仕立て上げの手間を軽減するために、+0.1程度で充分ではないかと考えられそうなのだが、事実その通りなのだが、焼き入れ後の平面研削の段階で調製できることなので、準備段階では余裕を持たせるに越したことはない。
SK工具鋼(SK3/SKS3)の場合の焼き入れ温度は概ね850℃程度なのだが、ダイス鋼(SKD11)の場合はそれが1,050℃程とかなりの高温度が要求されるため、「脱炭層」が存外に大きくなるのではないかと思料され、あるいは、フライス盤の加工精度について過度な信頼はできないため、その分は余計と考えられそうではあるが手間を惜しんではならない。
平面研削盤での加工は、焼き入れしたダイス鋼に対してはcBN砥石で過研削すべしという話が一般的なのだが、GC砥石で十分に対応可能である。

平面研削盤では、仕立て上げるべき最終寸法に対して+0.02~+0.03にする。

SK工具鋼で製作していた時代には、手作業でラップ仕立てを行うべき範囲はできる限り限定されていないといけないという考え方で、+0.01程度のラップ余地を確保しようとしていたのだった。つまり、平面研削盤の検索痕を消除するために0.003程度寸法値が除却されるため、両面で0.005程度ラップされ、残る0.005のところでゲージとしての平面度・平行度を実現していこうという手順ではあった。
しかしながら、SK工具鋼に対するWA遊離砥粒ラップのラップ効率に比して、ダイス鋼に対するcBN固定砥粒ラップのラップ能力は上回るものであるから、平面研削盤での研削段階で余り厳密な加工寸法を追求しても、無駄だとまでは言わないが、得られるところは少ない。ラップ余地として+0.02~+0.03が残されていたとしても、さほど全体の作業時間が過剰になるわけではない。

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3. 指針測微器による寸法測定

キー溝幅ゲージの測定部寸法がどのように仕上がっているかという寸法検証は、原則としては「精密測定の原理」ともいうべきものに立脚する。

例えば、IT7級の8mmの場合、その製作許容差幅(製作公差)は0.0024mmである。この製作許容差幅の範囲内のどこに仕上がっているかを判断しようとするならば、その1/10の0.00024mmの寸法分解能が保証された測定器で寸法測定しなければならず、あるいは、その1/5の0.00048mmの寸法分解能が保証されていないといけない。従って、最小分解能が0.0005mmである指針測微器でブロックゲージを寸法基準とする比較測長でないといけないという結論が自ずから出てくる。

指針測微器を使用する場合、最も注意しなければならないことは測定台の平面度である。ブロックゲージやワークの基準面と不断に摺り合わされるため、とかく損耗しやすい。ブロックゲージを測定台面上で密着させながら移動させた場合に、指針の表示が振れるようだと具合が悪い。念のために測定台の基準面をチェックして、損耗が認められるようであれば手直しする。
手直しの結果状態を検証するためには、オプチカルフラットを使用するのだが、ごく僅かに中央部が凸R上になっていることが望ましい。測定台面とオプチカルフラット面とがリンギングしてしまうようだと、却って具合が悪いだろう。

ワーク面に対する測定ポイントは、5点(外縁部4点+中央部1点)もしくは8点(外周部6点+中央部2点)とするのは、ブロックゲージの寸法検定例に準じるためであり(JIS B 7506)、実際には、ワークを測定台面上をスライドさせて指針の振れを読み取っていく。
この場合、外周部・外縁部の寸法値を検証するのは、ワーク面に対するラップ加工に際して「縁ダレ」を起こしていないかどうかを確認し、中央部の寸法値を検定するのは、ワーク加工面が凸R上に仕立て上がっている場合の、その寸法差を把握するためである。外周部・外縁部の寸法値がワークの製作公差での最小値を割り込んでおらず、中央部の寸法値がワークの製作公差での最大値を上回っていなければ、このワークの寸法値は、全体として、製作公差範囲内にあるという判断がなされるという次第である。しかしながら、ワーク面が凸R上に仕立て上がっているかどうかはオプチカルフラットで簡単に検証できるものであるから、そうならないようなハンドラップ技能を修得するというのがゲージ屋としての弁えなのである。

ハンドラップ技能というのは、ワーク面に対するラップ加工に際して、「縁ダレ」を生起させるとか凸R上に仕立て上がるとかの「病理」が生じ得るというような技法ではなくて、そうではなくて、ラップ加工面を凹R面に仕立て上げることのできる技法なのである。この点は、いわゆる「機械ラップ」では原理的に有り得ないことであるから、ハンドラップ技法の究極態の一つである。

注記→ハンドラップ技能では、ワーク面を凹R面に仕立て上げることが可能な技法であるということは半世紀以上も前の技能者間では理解されていたことで、その理解に基づいて、当時のヨハンソン社のブロックゲージのリンギングの強さについて、ごく僅かな凹R面に仕立て上げられているのではないか?と、リンギング現象についてのいわゆる「大気圧説」の論拠となったのである。こういう「歴史」を知る者は、もういないのだろうが。

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