分類:ハサミゲージの世界
変位と修理
はじめに
ゲージは様々な原因で寸法変位を生じます。
その様々な原因は、大きく分けて、ゲージ素材そのものの材料物性に原因するもの、製作工程上で配慮・留意を欠いたことによるもの、使用現場での不用意な取り扱いによるもの、通常使用に伴う発錆や磨損によるもの、等が指摘されます。
昔は(と言ってもそれほどの過去でもないのですが)限界ゲージ全体を解説する書籍も刊行され容易に知識を得ることもできたのですが、昨今では望めないこととなっております。精密測定の技術的な関心と比重が半導体等の分野へ傾けられている現在、それはむしろ当然な結果でありましょう。
しかしながら、「ゲージは狂うものである」ということは事実であるにせよ、それをユーザー各位においてあまりに強く意識されると、メーカーとしては不本意なことと言わなければなりません。ゲージに寸法変位を生じないような様々な技術と工夫、配慮と注意で製作に当たっているわけですから。
ゲージ製作者としての「わきまえ」といえば、新規製作に当たっては、中仕上げから最終仕上げに至るまでの「取り代」が多いからといって叩いて拡げようとしてはいけない、取り過ぎたからといって叩いて縮めようとしてはいけない、あくまで仕上げ以外の余計な外力が加わらないように製作工程に習熟する、という点に存しています。ゲージの品質保証とは、このような製作工程にまで踏み込んだところでなされるべきことが、ISO9000’sでも求められているわけでしょう。
ゲージの製作工程を日本の工業水準に根拠を置くものとしてオープンなものにしていきたいと考えております。外部からは伺い知れない「父子相伝」の「秘技秘伝」の「職人の手業」というものではないわけです。
材料物性に基づく寸法変位原因
焼き入れ処理の問題
いわゆる「丸もの」、すなわち、内径用栓ゲージや外径用リングゲージの焼き入れ処理は専門業者に委託するのが通常で、焼き入れ工程そのものが現在では機械化(コンピュータ制御)されていますから、焼き戻し処理が適切に行われることによって、焼き入れ処理を原因とするその後の熱処理応力変化はかなりの程度解決されています。他方、焼き入れ処理それ自体が原因となる焼き入れ変形の問題は専門業者自身でどうこうできる問題ではなく(ただ、熱処理業者自身の経験・技術の差はあるでしょうが)、ゲージ製作者の側の問題となります。
限界板ゲージに関しては測定部の部分焼き入れが常態であるため、いわゆる「フレーム焼き入れ」を行います。
《低温焼き戻し》をすることで焼き入れ応力の解消はかなりの程度可能です。この「フレーム焼き入れ」自体が熟練の世界なのですが、融通無碍なところが長所でもあります。
加工応力の問題
ゲージ製作工程は切削・研削・研磨といった機械加工工程と、仕上げという人力による精密研磨工程とがありますが、特に機械加工工程において、被加工物に対して力が加わり、熱を生じ、形状が変化していく過程でもあって、表面応力の発生と不可分でもあります。
この加工応力の問題は、実は、非常に厄介な問題であって、被加工物が一つの形として出来上がった場合にはそれはそれで全体が均衡している、すなわち、加工応力があるからその後の寸法変位原因となるとは直ちに言えないということなのです。
もう少し説明すると、全体が均衡する以前に寸法仕上げをしてしまってXmmという測定値を得た場合、当然Xmmの検査成績書を添付して納品するのですが、納品後の受入検査においての検定値が(X-P)mmとなった場合、これをどう理解するかという現実に突き当たります。一つは、添付されている検査成績書の数値がデタラメである、二つは、製作から納入までにゲージ寸法が変位した、三つには、そもそもゲージ製作者側の基準ブロックゲージが怪しい、四つには、AがX値と測定したものをBが(X-p)値と測定するという測定技術の個人差によるものだ・・等、論点がどんどん拡散していきます。(特に二つ目の理解に基づけば、「こんな短期間に狂うようではこの先どれくらいの狂いを生じるか分かったものじゃない」という不安を持たれますが、均衡点に達した以後は狂うことはないのですが。)
因みに、新規製作納入時にこの種のトラブルを生じたゲージを「修理」した場合、以後、さほどの寸法変化を生じないこともよく知られています。ですから、この《初期不良》の原因は何かについてよく云々されるのですが、結論は、単純に焼き入れ後に低温焼き戻しをしていない、ということに尽きます。ほとんど例外なしに入り口寸法が5μm程小さくなっている、という場合の原因はこれです。
また、寸法変化の方向と量がばらつくという場合は、仕上げ工程でゲージ本体を叩いたり締めたりしたままであることが疑われます。取りシロが多ければ叩いてゲージ部を広げ、少ないか不足した場合には叩いたり締めたりしてゲージ部を狭めた、ということが考えられるわけです。叩いたり締めたりすることはゲージの寸法修復の際には例外なしに施される方法ですが、問題は、以後の寸法変化の原因となりうるということを念頭に置いて、キチンとその後始末ができているかどうかが問われるわけです。後始末してなければ当然寸法変化原因です。
加工応力による変位は、全体の均衡に達するまで一定の時間を要する、とみて対処していくことが肝要です。
ただし、粗雑(乱暴)な加工を行うと、いったん均衡したものとはいえ、外的な力が加わった場合に意外な寸法(形状)変化を生じるということがあります。平面研磨盤を使用して平面研磨を行う場合がそうです。
摩耗
『JIS B 7420 -1997』では挟みゲージ(外径用限界板ゲージ)の材質として「炭素工具鋼SK4又は機械的性質がこれと同等以上のものとする」とされていますが、具体的には日立金属(株)YG-4という鋼種が業界として採用されています。
他のものとどう違うかと言えば、焼き入れた場合の材料性能が全く違います。
この材質を前提として、より耐摩耗性を要求される場合には同じく日立金属(株)の[SGT]という鋼種が選択され、あるいは、超硬のチップを測定部に接着するという仕様が求められることもあるようで、ダイス鋼やその他の特殊材質のものが要求されるということもあるようです。
他の論点とも絡むのですが、「焼き入れ硬度が高い方が対摩耗性が確保できる」という立場から、受け入れ条件としてこの焼き入れ硬度を厳格にされるところがあるようです。結論から言えば、焼き入れ温度を高めて冷却油を工夫すれば硬度を高めることが可能です(因みに、YG-4でHRC64の結果を得たことがあります)。ただし、焼き入れ後の素材組織は好ましいものではなく、却って材質性能を毀損しているように思えますし、低温焼き戻しをしっかりした場合にはHRC62を維持することも難しくなります。YG-4の固有している耐摩耗性で不充分とされる場合には材質そのものの変更を考慮されるべきでしょう。
摩耗の問題は確かに寸法変位原因ですが、ゲージ製作者にとっては材料選択の問題に帰着します。
通常の使用で摩耗し公差割れした場合は、寸法修復の問題になります。
『JIS B 7420 -1997』では挟みゲージ(外径用限界板ゲージ)の材質として「炭素工具鋼SK4又は機械的性質がこれと同等以上のものとする」とされていますが、具体的には日立金属(株)YG-4という鋼種が業界として採用されています。
他のものとどう違うかと言えば、焼き入れた場合の材料性能が全く違います。
この材質を前提として、より耐摩耗性を要求される場合には同じく日立金属(株)の[SGT]という鋼種が選択され、あるいは、超硬のチップを測定部に接着するという仕様が求められることもあるようで、ダイス鋼やその他の特殊材質のものが要求されるということもあるようです。
他の論点とも絡むのですが、「焼き入れ硬度が高い方が対摩耗性が確保できる」という立場から、受け入れ条件としてこの焼き入れ硬度を厳格にされるところがあるようです。結論から言えば、焼き入れ温度を高めて冷却油を工夫すれば硬度を高めることが可能です(因みに、YG-4でHRC64の結果を得たことがあります)。ただし、焼き入れ後の素材組織は好ましいものではなく、却って材質性能を毀損しているように思えますし、低温焼き戻しをしっかりした場合にはHRC62を維持することも難しくなります。YG-4の固有している耐摩耗性で不充分とされる場合には材質そのものの変更を考慮されるべきでしょう。
摩耗の問題は確かに寸法変位原因ですが、ゲージ製作者にとっては材料選択の問題に帰着します。
通常の使用で摩耗し公差割れした場合は、寸法修復の問題になります。
人為的な取り扱いミスによる寸法変位原因
発錆
発錆は自然の現象ですから人為的な取り扱いミスに属す問題ではないとも言えますが、発錆を防止し得る手段方法が一般的な常識となっている現在においては、ここで取り上げることもあながち不適切とは言えないでしょう。
錆はゲージにとって致命的な問題で(単なる寸法変位原因の一つという意味づけではすまない問題で)、測定面上に錆が認められるだけでゲージそのものの廃棄(又は修理)が求められます。だからこそ、きめ細かな管理が要請されているわけです。
錆落としが求められる場合、通常次のようになっております。
錆が生じたという場合、その錆(通常は《赤錆》であるのが大部分です)は海綿状に膨れ上がったものですから、測定面を基準にして言えば、測定面上に盛り上がったものと、測定面下に侵食されたものとがあり、原則的には、測定面下で侵食された部分まで研削してしまう必要があります。錆によって侵食された部分(一見、ピンホール状を呈しています)を残すと、そこは海綿状態ですから酸素と結合しやすく、よりいっそう深く錆び侵食が進行していきます。従って、表面的にはわずかな発錆のように見えても存外に深く錆が浸食している場合があり、それを全部研削除去しないと良くありません。
偶発的な外力の付加
この問題は、基本的には、ユーザーサイドの問題です。新規製作時に仕様形状上の耐久性の有無については判断できても、いったん出来上がったものの保守保全はユーザーに委ねる以外にない問題です。
通常、ゲージの外周部に外力が加わった場合にはゲージ寸法は小さくなり、過大な被測定物に無理にゲージを押し込むこと等の内側から力が加わった場合にはゲージ寸法は大きくなります。摩耗による寸法変化との区別は、ゲージ測定部全体にテーパーが生じているか否か、を検定することで明確になります。
従って、日常的にゲージの取り扱い状態を注視しゲージの精度管理に努めようとするならば、新規受入検定ないし定期検定に際してゲージ測定部の平行度検定はもっと重視されて良い問題だと思えます。
なお、ゲージ測定部に存している(と考えられる)テーパーの存否と程度・量の検定においては、ブロックゲージを使用すればかなりの程度は判別できますが、それ以外の方法だと困難を伴います。
寸法修理の技法とその問題点
修理の前提準備作業
寸法修理を行う手順は以下の通りですが、前提作業として、「叩く」か、あるいは、「絞める(拡げる)」ということを行います。
鋼材に対するこれらの作業を通じて、いろいろなことが判明してきます。
先ず、「叩く」ということですが、「叩く」ことは鋼材の結晶構造の「滑り展性」の利用です。外側を叩けば内側に狭まり、内側を叩けば外側に拡がります。しかしながら、叩いた部分は結晶構造がつぶれて固くてもろい構造となります。従って、外側を叩いたところ狭まりすぎたから内側を叩いて拡げ、今度は拡がりすぎたから再度外側を叩いて・・というような作業を繰り返すと、材料そのものが劣化していきます。最終的には、いくら叩いても寸法変化が生ぜず、亀裂が入って割れるに至ります。適切な力によって最少限の作業で目的を達することが熟練の腕です。
次に、「絞める(拡げる)」ということですが、プレス機やヴァイスに挟んで「絞める」「拡げる」ということをしますが、鋼材には弾性がありますから降伏点以上の力を加える必要があります。ともすれば、「絞め過ぎ」「拡げ過ぎ」となるため、何回かに分けて慎重に行います。問題は、どこかの部分に圧縮力又は伸張力が集中するため、内部応力として将来の寸法変位の原因となりうることです。うまく0.1mm絞めたつもりでも0.04mmしか絞まっていない、0.06mm分は元に戻った、というのが普通です。問題を複雑にするのは、外力を加えることでそもそも内部に伏在されていた内部応力が解放され、収拾がつかなくなる場合もないではありません。
最後に、両方の方法を組み合わせるとどうか、ということがあります。
外側を叩いたものをヴァイスで拡げようとすると、あるいは、内側を叩いたものをヴァイスで狭めようとすると、結晶構造が圧縮された部分がありますから、思うように狭めたり拡げたりはできません。狭めようとしても多少の力では全く利かないくらいの堅さを発揮するものさえでてきます。絞めて狭めたものを拡げようと内側を叩いたとき、予想以上に大きく拡がったということも有り得ます。
つまり、修理に際して、新たに加わった材質の機械的性質の変化と内部応力要因をどう理解し、どのようにすれば全体が均衡して形状安定性が保たれるか、の問題を踏まえるということです。
*新規製作に際しては、絞めたり叩いたりはしていませんから、修理依頼があった場合、それが初回であれば、ほぼ事前の見通しどおりの過程を辿ります。
そうでない場合、新規製作時から修理依頼時までの間に何か手が加えられている、ということが判断できるのですが。
「叩く」ということは材料の結晶構造に直接作用しますから、例えば、現場での作業中にゲージが何かに「当たる」、「落とす」「放り当たる」「蹴飛ばす」等、個々の事象は軽微なものであっても、それらが累積してくると大きな寸法変位要因となることは明らかです。新規製作時においても、例えば「落とした」場合、傷ついた部分は完全に除去し、盛り上がった部分は確実に除去します。内部応力発生原因箇所を除却しなければならないと言うことです。そこまで注意しないとミクロン単位での精度維持はできません。
はじめに
ゲージは様々な原因で寸法変位を生じます。
その様々な原因は、大きく分けて、ゲージ素材そのものの材料物性に原因するもの、製作工程上で配慮・留意を欠いたことによるもの、使用現場での不用意な取り扱いによるもの、通常使用に伴う発錆や磨損によるもの、等が指摘されます。
昔は(と言ってもそれほどの過去でもないのですが)限界ゲージ全体を解説する書籍も刊行され容易に知識を得ることもできたのですが、昨今では望めないこととなっております。精密測定の技術的な関心と比重が半導体等の分野へ傾けられている現在、それはむしろ当然な結果でありましょう。
しかしながら、「ゲージは狂うものである」ということは事実であるにせよ、それをユーザー各位においてあまりに強く意識されると、メーカーとしては不本意なことと言わなければなりません。ゲージに寸法変位を生じないような様々な技術と工夫、配慮と注意で製作に当たっているわけですから。
ゲージ製作者としての「わきまえ」といえば、新規製作に当たっては、中仕上げから最終仕上げに至るまでの「取り代」が多いからといって叩いて拡げようとしてはいけない、取り過ぎたからといって叩いて縮めようとしてはいけない、あくまで仕上げ以外の余計な外力が加わらないように製作工程に習熟する、という点に存しています。ゲージの品質保証とは、このような製作工程にまで踏み込んだところでなされるべきことが、ISO9000’sでも求められているわけでしょう。
ゲージの製作工程を日本の工業水準に根拠を置くものとしてオープンなものにしていきたいと考えております。外部からは伺い知れない「父子相伝」の「秘技秘伝」の「職人の手業」というものではないわけです。
材料物性に基づく寸法変位原因
焼き入れ処理の問題
いわゆる「丸もの」、すなわち、内径用栓ゲージや外径用リングゲージの焼き入れ処理は専門業者に委託するのが通常で、焼き入れ工程そのものが現在では機械化(コンピュータ制御)されていますから、焼き戻し処理が適切に行われることによって、焼き入れ処理を原因とするその後の熱処理応力変化はかなりの程度解決されています。他方、焼き入れ処理それ自体が原因となる焼き入れ変形の問題は専門業者自身でどうこうできる問題ではなく(ただ、熱処理業者自身の経験・技術の差はあるでしょうが)、ゲージ製作者の側の問題となります。
限界板ゲージに関しては測定部の部分焼き入れが常態であるため、いわゆる「フレーム焼き入れ」を行います。
《低温焼き戻し》をすることで焼き入れ応力の解消はかなりの程度可能です。この「フレーム焼き入れ」自体が熟練の世界なのですが、融通無碍なところが長所でもあります。
加工応力の問題
ゲージ製作工程は切削・研削・研磨といった機械加工工程と、仕上げという人力による精密研磨工程とがありますが、特に機械加工工程において、被加工物に対して力が加わり、熱を生じ、形状が変化していく過程でもあって、表面応力の発生と不可分でもあります。
この加工応力の問題は、実は、非常に厄介な問題であって、被加工物が一つの形として出来上がった場合にはそれはそれで全体が均衡している、すなわち、加工応力があるからその後の寸法変位原因となるとは直ちに言えないということなのです。
もう少し説明すると、全体が均衡する以前に寸法仕上げをしてしまってXmmという測定値を得た場合、当然Xmmの検査成績書を添付して納品するのですが、納品後の受入検査においての検定値が(X-P)mmとなった場合、これをどう理解するかという現実に突き当たります。一つは、添付されている検査成績書の数値がデタラメである、二つは、製作から納入までにゲージ寸法が変位した、三つには、そもそもゲージ製作者側の基準ブロックゲージが怪しい、四つには、AがX値と測定したものをBが(X-p)値と測定するという測定技術の個人差によるものだ・・等、論点がどんどん拡散していきます。(特に二つ目の理解に基づけば、「こんな短期間に狂うようではこの先どれくらいの狂いを生じるか分かったものじゃない」という不安を持たれますが、均衡点に達した以後は狂うことはないのですが。)
因みに、新規製作納入時にこの種のトラブルを生じたゲージを「修理」した場合、以後、さほどの寸法変化を生じないこともよく知られています。ですから、この《初期不良》の原因は何かについてよく云々されるのですが、結論は、単純に焼き入れ後に低温焼き戻しをしていない、ということに尽きます。ほとんど例外なしに入り口寸法が5μm程小さくなっている、という場合の原因はこれです。
また、寸法変化の方向と量がばらつくという場合は、仕上げ工程でゲージ本体を叩いたり締めたりしたままであることが疑われます。取りシロが多ければ叩いてゲージ部を広げ、少ないか不足した場合には叩いたり締めたりしてゲージ部を狭めた、ということが考えられるわけです。叩いたり締めたりすることはゲージの寸法修復の際には例外なしに施される方法ですが、問題は、以後の寸法変化の原因となりうるということを念頭に置いて、キチンとその後始末ができているかどうかが問われるわけです。後始末してなければ当然寸法変化原因です。
加工応力による変位は、全体の均衡に達するまで一定の時間を要する、とみて対処していくことが肝要です。
ただし、粗雑(乱暴)な加工を行うと、いったん均衡したものとはいえ、外的な力が加わった場合に意外な寸法(形状)変化を生じるということがあります。平面研磨盤を使用して平面研磨を行う場合がそうです。
摩耗
『JIS B 7420 -1997』では挟みゲージ(外径用限界板ゲージ)の材質として「炭素工具鋼SK4又は機械的性質がこれと同等以上のものとする」とされていますが、具体的には日立金属(株)YG-4という鋼種が業界として採用されています。
他のものとどう違うかと言えば、焼き入れた場合の材料性能が全く違います。
この材質を前提として、より耐摩耗性を要求される場合には同じく日立金属(株)の[SGT]という鋼種が選択され、あるいは、超硬のチップを測定部に接着するという仕様が求められることもあるようで、ダイス鋼やその他の特殊材質のものが要求されるということもあるようです。
他の論点とも絡むのですが、「焼き入れ硬度が高い方が対摩耗性が確保できる」という立場から、受け入れ条件としてこの焼き入れ硬度を厳格にされるところがあるようです。結論から言えば、焼き入れ温度を高めて冷却油を工夫すれば硬度を高めることが可能です(因みに、YG-4でHRC64の結果を得たことがあります)。ただし、焼き入れ後の素材組織は好ましいものではなく、却って材質性能を毀損しているように思えますし、低温焼き戻しをしっかりした場合にはHRC62を維持することも難しくなります。YG-4の固有している耐摩耗性で不充分とされる場合には材質そのものの変更を考慮されるべきでしょう。
摩耗の問題は確かに寸法変位原因ですが、ゲージ製作者にとっては材料選択の問題に帰着します。
通常の使用で摩耗し公差割れした場合は、寸法修復の問題になります。
『JIS B 7420 -1997』では挟みゲージ(外径用限界板ゲージ)の材質として「炭素工具鋼SK4又は機械的性質がこれと同等以上のものとする」とされていますが、具体的には日立金属(株)YG-4という鋼種が業界として採用されています。
他のものとどう違うかと言えば、焼き入れた場合の材料性能が全く違います。
この材質を前提として、より耐摩耗性を要求される場合には同じく日立金属(株)の[SGT]という鋼種が選択され、あるいは、超硬のチップを測定部に接着するという仕様が求められることもあるようで、ダイス鋼やその他の特殊材質のものが要求されるということもあるようです。
他の論点とも絡むのですが、「焼き入れ硬度が高い方が対摩耗性が確保できる」という立場から、受け入れ条件としてこの焼き入れ硬度を厳格にされるところがあるようです。結論から言えば、焼き入れ温度を高めて冷却油を工夫すれば硬度を高めることが可能です(因みに、YG-4でHRC64の結果を得たことがあります)。ただし、焼き入れ後の素材組織は好ましいものではなく、却って材質性能を毀損しているように思えますし、低温焼き戻しをしっかりした場合にはHRC62を維持することも難しくなります。YG-4の固有している耐摩耗性で不充分とされる場合には材質そのものの変更を考慮されるべきでしょう。
摩耗の問題は確かに寸法変位原因ですが、ゲージ製作者にとっては材料選択の問題に帰着します。
通常の使用で摩耗し公差割れした場合は、寸法修復の問題になります。
人為的な取り扱いミスによる寸法変位原因
発錆
発錆は自然の現象ですから人為的な取り扱いミスに属す問題ではないとも言えますが、発錆を防止し得る手段方法が一般的な常識となっている現在においては、ここで取り上げることもあながち不適切とは言えないでしょう。
錆はゲージにとって致命的な問題で(単なる寸法変位原因の一つという意味づけではすまない問題で)、測定面上に錆が認められるだけでゲージそのものの廃棄(又は修理)が求められます。だからこそ、きめ細かな管理が要請されているわけです。
錆落としが求められる場合、通常次のようになっております。
錆が生じたという場合、その錆(通常は《赤錆》であるのが大部分です)は海綿状に膨れ上がったものですから、測定面を基準にして言えば、測定面上に盛り上がったものと、測定面下に侵食されたものとがあり、原則的には、測定面下で侵食された部分まで研削してしまう必要があります。錆によって侵食された部分(一見、ピンホール状を呈しています)を残すと、そこは海綿状態ですから酸素と結合しやすく、よりいっそう深く錆び侵食が進行していきます。従って、表面的にはわずかな発錆のように見えても存外に深く錆が浸食している場合があり、それを全部研削除去しないと良くありません。
偶発的な外力の付加
この問題は、基本的には、ユーザーサイドの問題です。新規製作時に仕様形状上の耐久性の有無については判断できても、いったん出来上がったものの保守保全はユーザーに委ねる以外にない問題です。
通常、ゲージの外周部に外力が加わった場合にはゲージ寸法は小さくなり、過大な被測定物に無理にゲージを押し込むこと等の内側から力が加わった場合にはゲージ寸法は大きくなります。摩耗による寸法変化との区別は、ゲージ測定部全体にテーパーが生じているか否か、を検定することで明確になります。
従って、日常的にゲージの取り扱い状態を注視しゲージの精度管理に努めようとするならば、新規受入検定ないし定期検定に際してゲージ測定部の平行度検定はもっと重視されて良い問題だと思えます。
なお、ゲージ測定部に存している(と考えられる)テーパーの存否と程度・量の検定においては、ブロックゲージを使用すればかなりの程度は判別できますが、それ以外の方法だと困難を伴います。
寸法修理の技法とその問題点
修理の前提準備作業
寸法修理を行う手順は以下の通りですが、前提作業として、「叩く」か、あるいは、「絞める(拡げる)」ということを行います。
鋼材に対するこれらの作業を通じて、いろいろなことが判明してきます。
先ず、「叩く」ということですが、「叩く」ことは鋼材の結晶構造の「滑り展性」の利用です。外側を叩けば内側に狭まり、内側を叩けば外側に拡がります。しかしながら、叩いた部分は結晶構造がつぶれて固くてもろい構造となります。従って、外側を叩いたところ狭まりすぎたから内側を叩いて拡げ、今度は拡がりすぎたから再度外側を叩いて・・というような作業を繰り返すと、材料そのものが劣化していきます。最終的には、いくら叩いても寸法変化が生ぜず、亀裂が入って割れるに至ります。適切な力によって最少限の作業で目的を達することが熟練の腕です。
次に、「絞める(拡げる)」ということですが、プレス機やヴァイスに挟んで「絞める」「拡げる」ということをしますが、鋼材には弾性がありますから降伏点以上の力を加える必要があります。ともすれば、「絞め過ぎ」「拡げ過ぎ」となるため、何回かに分けて慎重に行います。問題は、どこかの部分に圧縮力又は伸張力が集中するため、内部応力として将来の寸法変位の原因となりうることです。うまく0.1mm絞めたつもりでも0.04mmしか絞まっていない、0.06mm分は元に戻った、というのが普通です。問題を複雑にするのは、外力を加えることでそもそも内部に伏在されていた内部応力が解放され、収拾がつかなくなる場合もないではありません。
最後に、両方の方法を組み合わせるとどうか、ということがあります。
外側を叩いたものをヴァイスで拡げようとすると、あるいは、内側を叩いたものをヴァイスで狭めようとすると、結晶構造が圧縮された部分がありますから、思うように狭めたり拡げたりはできません。狭めようとしても多少の力では全く利かないくらいの堅さを発揮するものさえでてきます。絞めて狭めたものを拡げようと内側を叩いたとき、予想以上に大きく拡がったということも有り得ます。
つまり、修理に際して、新たに加わった材質の機械的性質の変化と内部応力要因をどう理解し、どのようにすれば全体が均衡して形状安定性が保たれるか、の問題を踏まえるということです。
*新規製作に際しては、絞めたり叩いたりはしていませんから、修理依頼があった場合、それが初回であれば、ほぼ事前の見通しどおりの過程を辿ります。
そうでない場合、新規製作時から修理依頼時までの間に何か手が加えられている、ということが判断できるのですが。
「叩く」ということは材料の結晶構造に直接作用しますから、例えば、現場での作業中にゲージが何かに「当たる」、「落とす」「放り当たる」「蹴飛ばす」等、個々の事象は軽微なものであっても、それらが累積してくると大きな寸法変位要因となることは明らかです。新規製作時においても、例えば「落とした」場合、傷ついた部分は完全に除去し、盛り上がった部分は確実に除去します。内部応力発生原因箇所を除却しなければならないと言うことです。そこまで注意しないとミクロン単位での精度維持はできません。