分類:よくある質問
総焼き入れゲージ
総焼き入れゲージとは?
「総焼き入れゲージ」とは、文字通り、「ゲージ全体を焼き入れ処理したゲージ」のことなのですが、内径用栓ゲージや外径用リングゲージはそもそも総焼き入れゲージなのですから、問題になるのは専ら板ゲージの場合です。
前以て説明しておく必要があるのですが、「焼き入れ処理」といってもいろいろな技法があります。
①アセチレンガスを使った「フレーム焼き入れ」
②電気炉でワークを加熱して油焼き入れをするもの
③電気炉でワークを加熱してガス冷却するもの(焼き戻し処理までコンピュータ制御するもの)が主な方法です。
通常の板ゲージは①の方法によるゲージ測定部の局部焼き入れです。
「総焼き入れゲージ」の場合は、②ないし③の方法となりますが、いずれにせよ、専門業者に委託することになります。
ゲージの製作工程手順としては、局部的な「フレーム焼き入れ」の工程を「総焼き入れ」の工程に置き換えたもの、すなわち、ゲージの外形形状を作製し、仕上げ余地を残した段階で焼き入れ工程を措置する、ということなのですが、通常、焼き入れ歪みを生じるため、その「歪み取り」が結構困難な手間取る作業となります。多くの場合、ゲージ脚部が捻れてしまいます。平面研磨で研削していくのですが、0.2~0.5mm程度の研削で収まれば幸運な方で、やり直しを強いられる場合も少なくありません。従って、効率よく製作できるかどうかは「やってみなければわからない」ことに属します。
このことを回避するために、ゲージの材料の段階で総焼き入れを行い、その後にワイヤー・カット機でゲージ外形形状に切り出す、ということも行われています。むしろ、この方法以外には無理かも知れません。
なぜ総焼き入れゲージがテーマとなるのか?
実務上、総焼き入れでなければゲージとして製作できない、という場合は極めて限られたレア・ケースと言えます。
しかしながら、総焼き入れゲージの有用性が意識される場合というものが昔からありました。
それはどういう場合かと言うと、「ゲージの耐久性・安定性に疑問が寄せられた場合」がほとんどです。
「新規製作ゲージにかかわらず、すぐに寸法に狂いを生じる」という現実に当面して、ユーザーサイドはゲージの材質・形状仕様等にそもそも問題があるのではないかと疑い、メーカーサイドは現場での仕様に乱雑で不適正な使用がされたからではないかと指摘し、寸法変位の原因理由が容易に詰め切れないため、いわば折衷的妥協的な打開策として総焼き入れゲージを試用してみるという場合がほとんどであるようです。
しかしながら、高価格の総焼き入れゲージを購入し続けるということもはばかられ、あるいは、世間一般が通常のゲージで問題なく生産活動を続けているという現実もあって、総焼き入れゲージは一時的な試用品にとどまるケースがほとんどです。
ただ、当初の「ゲージの耐久性・安定性に対する疑問」は払拭されないままに曖昧になっているのが現状でしょう。
総焼き入れゲージが示唆するもの
総焼き入れされたゲージを仕上げする場合、「叩いて寸法を調整する」ということができなくなります。
ユーザーが総焼き入れゲージを要求する場合、ゲージの寸法の狂いの原因がゲージの製作工程にあるのではないかという疑いを持っていることを示唆します。
確かに、「叩いて寸法を調整する」ことは内部の応力を蓄積させますし、まして、その叩いた痕を平面研削で消すということをすると最悪です。やってしまったことは仕方がないとしても、その「後始末」はキチンとしておかなければ寸法変位の原因となることは疑いありません。従って、ゲージメーカーとしては、「叩いて寸法を調整する」ようなことが無いような仕上げ工程の手順を明確に履践する必要がありますし、ユーザーに対してもキチンと説明する必要があります。
他方、寸法の狂いの原因が焼き入れ工程にある場合、問題が複雑になります。
局部的なフレーム焼き入れの場合、「焼き戻し」をキチンとしておかないと寸法変位の原因になります。
受け入れ検査の段階で公差内に仕上がっていて合格したゲージが、数ヶ月後の検定で公差逸脱の不合格となる場合、他の要因(例えば、叩いて寸法調整したというような、あるいは、現場で非常識な使用方法があったとか)が考えられない場合には、この焼き戻しをしていないことによる寸法の狂いだと判断できます(焼き入れ部分が収縮したような狂い方で、ゲージ通り部先端で-5μm程度、止り部ではむしろプラスに変位します)。この場合、追加的に寸法補修を施すと、寸法の狂いとして現出するものはすでに出てしまったのですから、以後はそれ程たいした狂いは出ません。この寸法補修の費用負担を巡って、ゲージメーカーが非を認めて無償とするか、ユーザーが費用負担してメーカーに補修させるかは、寸法の変化・狂いの原因をどう認識し了解するかによります。
総焼き入れのゲージの場合、焼き入れ専門業者が焼き入れ・焼き戻しを丁寧に行っていれば(これがほとんどでしょうが)、焼き入れ処理の不都合による寸法変位は生じませんから、問題として現出することはありません。
ただし、焼き入れ後にワイヤーカット機でゲージ外形形状を製作する場合には、ワイヤーカット機によることが新たな寸法変位原因となるはずのもので、その「後始末」をキチンとしておかなければならないはずのものです(この方法で製作したことがないので実際はどうなのかはわかりませんが、理論的には寸法変位原因の一つになります)。
なお、総焼き入れゲージとサブゼロ処理とは一体のものと理解されているのが普通です。つまり、サブゼロ処理をすれば狂わないゲージができあがる、というわけです。よく誤解されているようなのですが、サブゼロ処理は残留オーステナイトのマルテンサイト化を図るものなので、残留応力(熱処理に伴って生じた応力等)は解消されておらず、今度はさらにサブゼロ処理に伴って内部応力が新たに加わっているものなのです。従って、それらの内部応力の解放・解消の手順が不可欠です。サブゼロ処理の《後処理》がいい加減か不徹底であったなら、フレーム焼き入れの焼き入れっぱなしのゲージよりもいっそうよく狂うゲージができあがります。これをよく理解した上で《後処理》を徹底的にしてくれるかどうかが業者選択の基準となります(おおむねよく理解してやってくれているのでしょうが)。
総焼き入れゲージの有用性について
以上に長々と論述してきたことの主旨は、総焼き入れゲージの要求とは寸法の狂いに対するユーザーサイドからの改善策であった、ということなのですが、「ゲージを叩いて寸法調整して仕上げるという行儀の悪いことはしない」ということと「焼き入れ・焼き戻しを丁寧にする」という2点だけで大幅な改善を獲得できるということです。総焼き入れゲージが必要だとされる場合は、従って、ほとんど無いということです。総焼き入れゲージですべてが改善されるわけではなく、却って、総焼き入れとすることで新たな問題を生じる懼れさえあります。
ゲージメーカーにとっては、これらは業務上も当然自明な《わきまえ》であると言わなければなりませんが、世間的には必ずしもその通りになっていないという極めて遺憾な現実が存しています。
総焼き入れゲージの製作方法について
一定の有用性を認めた上でたとえば、28h7のゲージを製作する場合、
1.75×85×5TにYG4材を成形し、35φの穴と5φの穴、通止区分穴を加工します。
*焼き入れ後の機械加工を可能にする切削工具もありますが、機械加工は焼き入れ前に済ます方が良い。
2.熱処理業者に総焼き入れを委託します。
*均一な焼き入れ処理が必要なので、フレーム焼き入れでは全く駄目です。
*サブゼロ処理を併せて委託すべきです(SGT(SKS3)が採用されるべきでしょう)。
3.ゲージ寸法-1mm位の寸法に「口切り」を行います。
*「口切り」に際して「発熱」を原因とする局部的な材質変化が有り得るため、その部分を寸法仕上げに際して 全部除却する必要があります。
4.平面研磨機で研磨し、ゲージ全体の「歪み」や「反り」・「捻れ」を取ります。
*この「前工程」と「仕上げ工程」との間に1~2日置いた方が良い。
*気を付けないと、平面研磨を原因とする「歪み」や「反り」・「捻れ」を生じています。
5.「口切り」部分を丁寧に研削・研磨し、ゲージ寸法を仕上げます。
おおむね、以上のような方法で総焼き入れゲージが製作可能です。
ワイヤー・カット機を使用する場合、上記3.の工程で活用すれば、「研磨しろ」だけ残して効率よく下仕上げができる、という考え方が成り立ちます。ワイヤー・カット機を使用した場合に予見できるゲージの寸法変位要因をこれで最小限に止めることができる、というわけなのですが、ワイヤー・カット機の原理からして、ワークに対して強烈なストレスを付与しているわけですから、そのストレスを受けた部分を除却するのにどの程度の削り込みが必要かはにわかに判断できません。
寸法仕上げの過程ではワークにストレスを賦課しないような加工方法が必須であり、そのためには人の手の力で研削・研磨するのが一番です。
そう考えると、ワイヤー・カット機を活用する意味がどこにあるか、です。
なお、均一に焼き入れられたゲージが仕上げ工程における「発熱」に起因する材質変化を生じた場合、それは仕上げ面の「ラッピング」ではっきりします。例えば、表面硬度にムラがある場合、砥石仕上げや#2000程度のラッピング仕上げでは判然としませんが、#8000~#10000という微細なラッピングに際してはいっそう鮮明になります。
*総焼き入れのゲージだと言いながら、ゲージ測定部の加工に際して乱暴なことをして硬度が下がった場合、何をして いることやら・・・。
付論:ゲージ材質について
JISでは、「SK4以上」とされており、通常、板ゲージにはYG4(日立金属㈱)が採用されています。
SKの段階区別は主にC量の含有比率によるもので、工具用鋼材としての性能はカーボン以外の微少元素の含有比率に大きく依存するものであることは改めて指摘するまでもありません。
YG4の特質としては、焼き入れ性能が非常によい、焼き戻しすることによってジン性(粘り強さ)が増す、等の点が指摘されますが(刃物材としての優秀さから当然のことです)、製鋼所において焼鈍処理が完璧になされているため、経年的な変化がほとんど認められない、という点も大きな特質です。
ところが、SK5を使用されている場合もあるようです。
SK5に関しては各製鋼メーカーから販売されている一般的な材料ですが、ゲージに採用する場合、焼き戻し処理によって焼き入れ硬度が低下するという「欠点」があります。C量比率がSK4と比べて低いわけですから当然の結論ではありますが、硬度低下を来さない範囲で焼き戻し効果が獲得できるようにする、ということはかなり神経を使う作業になります。
従って、SK5材で製作されたゲージに必要な焼き戻し処理を要求することは、焼き入れ硬度低下を受容せざるを得ないことを意味します。仕様図面において、焼き入れ硬度をHRC60~62が指定されている場合はYG4を採用しなければなりませんが、HRC56~58でも可とされていればSK5を許容するということを意味します。(よく見かける例として、材質としてSK(S)3を指定しつつも焼き入れ硬度をHRC56~58と指定することは背理と言わなければなりません。)
HRC62というとアランダム製砥石の引っ掛かりが悪くなり砥石が滑る傾向のある硬度ですがラッピング仕上げの表面品質が良好となり、HRC56~58というとアランダム製砥石の引っ掛かりが良く作業が楽になりますがラッピング仕上げの表面品質は劣後します。
耐摩耗性という点から言えば、YG4で焼き入れ硬度HRC60~62でないと、充分に材料性能を引き出すことができません。また、それで必要かつ充分なのです。
総焼き入れゲージとは?
「総焼き入れゲージ」とは、文字通り、「ゲージ全体を焼き入れ処理したゲージ」のことなのですが、内径用栓ゲージや外径用リングゲージはそもそも総焼き入れゲージなのですから、問題になるのは専ら板ゲージの場合です。
前以て説明しておく必要があるのですが、「焼き入れ処理」といってもいろいろな技法があります。
①アセチレンガスを使った「フレーム焼き入れ」
②電気炉でワークを加熱して油焼き入れをするもの
③電気炉でワークを加熱してガス冷却するもの(焼き戻し処理までコンピュータ制御するもの)が主な方法です。
通常の板ゲージは①の方法によるゲージ測定部の局部焼き入れです。
「総焼き入れゲージ」の場合は、②ないし③の方法となりますが、いずれにせよ、専門業者に委託することになります。
ゲージの製作工程手順としては、局部的な「フレーム焼き入れ」の工程を「総焼き入れ」の工程に置き換えたもの、すなわち、ゲージの外形形状を作製し、仕上げ余地を残した段階で焼き入れ工程を措置する、ということなのですが、通常、焼き入れ歪みを生じるため、その「歪み取り」が結構困難な手間取る作業となります。多くの場合、ゲージ脚部が捻れてしまいます。平面研磨で研削していくのですが、0.2~0.5mm程度の研削で収まれば幸運な方で、やり直しを強いられる場合も少なくありません。従って、効率よく製作できるかどうかは「やってみなければわからない」ことに属します。
このことを回避するために、ゲージの材料の段階で総焼き入れを行い、その後にワイヤー・カット機でゲージ外形形状に切り出す、ということも行われています。むしろ、この方法以外には無理かも知れません。
なぜ総焼き入れゲージがテーマとなるのか?
実務上、総焼き入れでなければゲージとして製作できない、という場合は極めて限られたレア・ケースと言えます。
しかしながら、総焼き入れゲージの有用性が意識される場合というものが昔からありました。
それはどういう場合かと言うと、「ゲージの耐久性・安定性に疑問が寄せられた場合」がほとんどです。
「新規製作ゲージにかかわらず、すぐに寸法に狂いを生じる」という現実に当面して、ユーザーサイドはゲージの材質・形状仕様等にそもそも問題があるのではないかと疑い、メーカーサイドは現場での仕様に乱雑で不適正な使用がされたからではないかと指摘し、寸法変位の原因理由が容易に詰め切れないため、いわば折衷的妥協的な打開策として総焼き入れゲージを試用してみるという場合がほとんどであるようです。
しかしながら、高価格の総焼き入れゲージを購入し続けるということもはばかられ、あるいは、世間一般が通常のゲージで問題なく生産活動を続けているという現実もあって、総焼き入れゲージは一時的な試用品にとどまるケースがほとんどです。
ただ、当初の「ゲージの耐久性・安定性に対する疑問」は払拭されないままに曖昧になっているのが現状でしょう。
総焼き入れゲージが示唆するもの
総焼き入れされたゲージを仕上げする場合、「叩いて寸法を調整する」ということができなくなります。
ユーザーが総焼き入れゲージを要求する場合、ゲージの寸法の狂いの原因がゲージの製作工程にあるのではないかという疑いを持っていることを示唆します。
確かに、「叩いて寸法を調整する」ことは内部の応力を蓄積させますし、まして、その叩いた痕を平面研削で消すということをすると最悪です。やってしまったことは仕方がないとしても、その「後始末」はキチンとしておかなければ寸法変位の原因となることは疑いありません。従って、ゲージメーカーとしては、「叩いて寸法を調整する」ようなことが無いような仕上げ工程の手順を明確に履践する必要がありますし、ユーザーに対してもキチンと説明する必要があります。
他方、寸法の狂いの原因が焼き入れ工程にある場合、問題が複雑になります。
局部的なフレーム焼き入れの場合、「焼き戻し」をキチンとしておかないと寸法変位の原因になります。
受け入れ検査の段階で公差内に仕上がっていて合格したゲージが、数ヶ月後の検定で公差逸脱の不合格となる場合、他の要因(例えば、叩いて寸法調整したというような、あるいは、現場で非常識な使用方法があったとか)が考えられない場合には、この焼き戻しをしていないことによる寸法の狂いだと判断できます(焼き入れ部分が収縮したような狂い方で、ゲージ通り部先端で-5μm程度、止り部ではむしろプラスに変位します)。この場合、追加的に寸法補修を施すと、寸法の狂いとして現出するものはすでに出てしまったのですから、以後はそれ程たいした狂いは出ません。この寸法補修の費用負担を巡って、ゲージメーカーが非を認めて無償とするか、ユーザーが費用負担してメーカーに補修させるかは、寸法の変化・狂いの原因をどう認識し了解するかによります。
総焼き入れのゲージの場合、焼き入れ専門業者が焼き入れ・焼き戻しを丁寧に行っていれば(これがほとんどでしょうが)、焼き入れ処理の不都合による寸法変位は生じませんから、問題として現出することはありません。
ただし、焼き入れ後にワイヤーカット機でゲージ外形形状を製作する場合には、ワイヤーカット機によることが新たな寸法変位原因となるはずのもので、その「後始末」をキチンとしておかなければならないはずのものです(この方法で製作したことがないので実際はどうなのかはわかりませんが、理論的には寸法変位原因の一つになります)。
なお、総焼き入れゲージとサブゼロ処理とは一体のものと理解されているのが普通です。つまり、サブゼロ処理をすれば狂わないゲージができあがる、というわけです。よく誤解されているようなのですが、サブゼロ処理は残留オーステナイトのマルテンサイト化を図るものなので、残留応力(熱処理に伴って生じた応力等)は解消されておらず、今度はさらにサブゼロ処理に伴って内部応力が新たに加わっているものなのです。従って、それらの内部応力の解放・解消の手順が不可欠です。サブゼロ処理の《後処理》がいい加減か不徹底であったなら、フレーム焼き入れの焼き入れっぱなしのゲージよりもいっそうよく狂うゲージができあがります。これをよく理解した上で《後処理》を徹底的にしてくれるかどうかが業者選択の基準となります(おおむねよく理解してやってくれているのでしょうが)。
総焼き入れゲージの有用性について
以上に長々と論述してきたことの主旨は、総焼き入れゲージの要求とは寸法の狂いに対するユーザーサイドからの改善策であった、ということなのですが、「ゲージを叩いて寸法調整して仕上げるという行儀の悪いことはしない」ということと「焼き入れ・焼き戻しを丁寧にする」という2点だけで大幅な改善を獲得できるということです。総焼き入れゲージが必要だとされる場合は、従って、ほとんど無いということです。総焼き入れゲージですべてが改善されるわけではなく、却って、総焼き入れとすることで新たな問題を生じる懼れさえあります。
ゲージメーカーにとっては、これらは業務上も当然自明な《わきまえ》であると言わなければなりませんが、世間的には必ずしもその通りになっていないという極めて遺憾な現実が存しています。
総焼き入れゲージの製作方法について
一定の有用性を認めた上でたとえば、28h7のゲージを製作する場合、
1.75×85×5TにYG4材を成形し、35φの穴と5φの穴、通止区分穴を加工します。
*焼き入れ後の機械加工を可能にする切削工具もありますが、機械加工は焼き入れ前に済ます方が良い。
2.熱処理業者に総焼き入れを委託します。
*均一な焼き入れ処理が必要なので、フレーム焼き入れでは全く駄目です。
*サブゼロ処理を併せて委託すべきです(SGT(SKS3)が採用されるべきでしょう)。
3.ゲージ寸法-1mm位の寸法に「口切り」を行います。
*「口切り」に際して「発熱」を原因とする局部的な材質変化が有り得るため、その部分を寸法仕上げに際して 全部除却する必要があります。
4.平面研磨機で研磨し、ゲージ全体の「歪み」や「反り」・「捻れ」を取ります。
*この「前工程」と「仕上げ工程」との間に1~2日置いた方が良い。
*気を付けないと、平面研磨を原因とする「歪み」や「反り」・「捻れ」を生じています。
5.「口切り」部分を丁寧に研削・研磨し、ゲージ寸法を仕上げます。
おおむね、以上のような方法で総焼き入れゲージが製作可能です。
ワイヤー・カット機を使用する場合、上記3.の工程で活用すれば、「研磨しろ」だけ残して効率よく下仕上げができる、という考え方が成り立ちます。ワイヤー・カット機を使用した場合に予見できるゲージの寸法変位要因をこれで最小限に止めることができる、というわけなのですが、ワイヤー・カット機の原理からして、ワークに対して強烈なストレスを付与しているわけですから、そのストレスを受けた部分を除却するのにどの程度の削り込みが必要かはにわかに判断できません。
寸法仕上げの過程ではワークにストレスを賦課しないような加工方法が必須であり、そのためには人の手の力で研削・研磨するのが一番です。
そう考えると、ワイヤー・カット機を活用する意味がどこにあるか、です。
なお、均一に焼き入れられたゲージが仕上げ工程における「発熱」に起因する材質変化を生じた場合、それは仕上げ面の「ラッピング」ではっきりします。例えば、表面硬度にムラがある場合、砥石仕上げや#2000程度のラッピング仕上げでは判然としませんが、#8000~#10000という微細なラッピングに際してはいっそう鮮明になります。
*総焼き入れのゲージだと言いながら、ゲージ測定部の加工に際して乱暴なことをして硬度が下がった場合、何をして いることやら・・・。
付論:ゲージ材質について
JISでは、「SK4以上」とされており、通常、板ゲージにはYG4(日立金属㈱)が採用されています。
SKの段階区別は主にC量の含有比率によるもので、工具用鋼材としての性能はカーボン以外の微少元素の含有比率に大きく依存するものであることは改めて指摘するまでもありません。
YG4の特質としては、焼き入れ性能が非常によい、焼き戻しすることによってジン性(粘り強さ)が増す、等の点が指摘されますが(刃物材としての優秀さから当然のことです)、製鋼所において焼鈍処理が完璧になされているため、経年的な変化がほとんど認められない、という点も大きな特質です。
ところが、SK5を使用されている場合もあるようです。
SK5に関しては各製鋼メーカーから販売されている一般的な材料ですが、ゲージに採用する場合、焼き戻し処理によって焼き入れ硬度が低下するという「欠点」があります。C量比率がSK4と比べて低いわけですから当然の結論ではありますが、硬度低下を来さない範囲で焼き戻し効果が獲得できるようにする、ということはかなり神経を使う作業になります。
従って、SK5材で製作されたゲージに必要な焼き戻し処理を要求することは、焼き入れ硬度低下を受容せざるを得ないことを意味します。仕様図面において、焼き入れ硬度をHRC60~62が指定されている場合はYG4を採用しなければなりませんが、HRC56~58でも可とされていればSK5を許容するということを意味します。(よく見かける例として、材質としてSK(S)3を指定しつつも焼き入れ硬度をHRC56~58と指定することは背理と言わなければなりません。)
HRC62というとアランダム製砥石の引っ掛かりが悪くなり砥石が滑る傾向のある硬度ですがラッピング仕上げの表面品質が良好となり、HRC56~58というとアランダム製砥石の引っ掛かりが良く作業が楽になりますがラッピング仕上げの表面品質は劣後します。
耐摩耗性という点から言えば、YG4で焼き入れ硬度HRC60~62でないと、充分に材料性能を引き出すことができません。また、それで必要かつ充分なのです。