分類:ハサミゲージの世界
板ゲージの校正:概説
限界板ゲージの校正をユーザー自身が行うための技術的な説明
概説(新規製作ゲージの受け入れ検定を中心に)
限界ゲージ校正に必要な道具
●ブロックゲージ
ブロックゲージがないと校正できないことは言うまでもありませんが、ここで指摘するのは「保護ブロックゲージの要否」です。
ブロックゲージセットの精度保全の必要から、あらゆる場合に保護ブロックゲージを使用すべきことはもちろんであるわけですが、これには超硬製のものとセラミック製のものとがあります。
●オプチカルフラット
●アルカンサス砥石
ブロックゲージの補修のためのものですが、これが必要な場合という事例は稀だと思います。
●隙見
新規製作ゲージの受け入れ検査に際しては不要でしょうが、一定期間現場で使用してきたゲージを検査する場合にあった方が良い道具です。
通常、限界ゲージの磨損は、以下のような特性を持っています。
通り部入り口部分が丸く磨損する。
止り段差部分で被測定物が当たる箇所が磨損する。
止り部入り口部分が丸く磨損する。
被測定物が通過する部分が丸く磨損する。
これらを視認するためには透き見を使用することが最も簡便容易です。
隙見によって判別できる隙間寸法は2μm程度が限界です。
●作業用定盤
検査用である必要は特になく、作業しやすい大きさのもので十分です
校正作業の実際
ブロックゲージの使い方
第1に、寸法検定に関しては、限界ゲージの長手方向にブロックゲージの長手方向を合わせて、過小寸法から順次寸法を大きく組み替えながらブロックゲージを差し込んでいく、という方法が採られます。
この場合、ブロックゲージの寸法が小さければ何の抵抗も受けずにスカスカにブロックは通過します。ブロックゲージの寸法値が大きければ、ゲージ測定部に差し込めないか、差し込める場合でも一定の抵抗を受けます。ちょうどの寸法の場合には、滑るように限界ゲージ測定部に入り込みます。
『JIS B 7420』付表24に掲記されているゲージ部の測定方法はこのことを言います。
ただ、現実には、限界ゲージの測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、これだけでは検出できません。この場合には、限界ゲージの長手方向にブロックゲージの長手方向を合わせて差し込み、行き当たった所でブロックゲージを90゜回転させて、ブロックゲージの中央部を接触させつつ引き抜いていきます。引き抜きながら、抵抗感の変化を察知するわけです。
第2に、平行度検定に関しては、第1の場合に際して、丁度の寸法かややブロックゲージの寸法が大きいと判断できる場合に、限界ゲージの長手方向とブロックゲージの長手方向を合わせて限界ゲージの測定面全体がブロックゲージに接しているところから、そのままブロックゲージを回転(前後90゜づつ)させます。
限界ゲージ測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、その最も高いところ(寸法値が最も小さいところ)を中心にブロックゲージが回転することがわかります。正常な場合は、ブロックゲージを回転させた場合にも限界ゲージ測定面全体に接触していることが感知できます。
以上のことは、いわば限界ゲージの対向測定面の線平行度の良否を検定しているのですが、面平行度の検定もあわせて行います。
すなわち、丁度の寸法と思われる場合に、限界ゲージ測定面とブロックゲージを直交させた状態でブロックゲージを揺さぶります。限界ゲージの対向面の平行度があまい場合、「がたつき」が感知されます。この場合、最小寸法値とされるのはブロックゲージの寸法値ですが、今度は、限界ゲージ測定部の両サイドからブロックゲージを差し込みます。均等な抵抗感でブロックゲージが差し込めれば平行度は良いと言えますが、中途まで何の抵抗感もなく差し込めるようだと対向するゲージ測定面に傾斜が存していることを意味します。適切にブロックゲージの寸法を増やして、丁度と判断できるところを求めます。ブロックゲージの増し分が許容平行度内にあるかどうかで合否が判断できます。
ただし、限界ゲージの性格・機能上、平行度は0(ブロックゲージでは面の「倒れ」「捻れ」「歪み」「うねり」が検出できないという状態)が望ましいことは言うまでもありません。
上記の説明から、限界ゲージの検定作業とは熟練を伴った官能検査ではないのか、という印象を持たれるかも知れません。しかし、限界ゲージの測定部の寸法値とブロックゲージの寸法値が一致しているという判断は物理的な事実判断の問題であって、通常の意味用法における官能検査とは言えません。
検定作業は手早くする必要があります。ブロックゲージや限界ゲージを長く握り込んで温度変化に対する注意が疎かになりがちです。
写像から限界ゲージ測定面の面性状を判別する
ゲージ測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、ブロックゲージに頼るまでもなく、目視で判定され得ます。ゲージ測定面がラッピング仕上げされていて鏡面(もしくはそれに近い状態)の場合、任意の適切な像を映せば、その歪みから判断されます。
限界ゲージ測定面とブロックゲージ面とがリンギングする
教科書にも触れられることはないのですが、検定に際して、ゲージ測定面とブロックゲージとの間でリンギングするということがあります。(経験的には#3000のWAでラッピング仕上げしたものでリンギングを実現できます。)
具体的にはどうなるかというと、1μm手前の(小さな)ブロックゲージを差し込むとガタガタで明らかにブロックゲージの寸法値が小さいことが明確なところ、もう1μm大きなブロックゲージを差し込むととたんに大きな抵抗に出会います。ブロックゲージの寸法値を徐々に増やしていっても、丁度と良いという境界値に出会わないのです。
メーカーが添付してきた検査成績書記載の実寸法値のブロックゲージを組んで検査したところ、明らかに大きな抵抗を受ける。ゲージの寸法値が小さいのではないか、というわけです。
このような事象を回避するためには、ある程度の油成分を限界ゲージ測定部とブロックゲージ面に持たせて検定すれば良いのですが、例えば、オプチカルフラットを限界ゲージ測定面に当ててみるとか、小寸法のブロックゲージを接着させてみるということもやってみる意味はあります。
なお、縦目(ゲージの長手方向と一致する仕上げ方法)ではリンギングするまでの測定面は作れず、横目(ゲージの長手方向と直角に交差する仕上げ方法)のハンドラップ仕上げにおいてのみ可能です。ただし、リンギングするほどの面性状に仕上げされているゲージが本当に良いゲージであると皆に歓迎される、と言い切れないところが辛い点です。
ブロックゲージによる検定における実際
適正な平行度が保証されているゲージ測定部に、その寸法値よりわずかに大きなブロックゲージを差し込んだ場合、ブロックゲージはゲージ測定部を「押し拡げる」ように作用しますから、感覚的には「奥の方が固い」ように判断されがちです。もっとも、ゲージ測定部とブロックゲージの寸法値に1μmの差があれば、ブロックゲージを差し込もうとする場合には大きな抵抗がありますから、それ以前に大小判断は明白です。
この点から、ゲージ測定部がわずかにテーパーがかかっている場合、例えば、入り口部の寸法が小さな場合、ブロックゲージを差し込んでいくと、測定部全域で「均等な抵抗感」が認められ、そのため「平行度は良好でわずかに寸法が小さい」と判断される場合があります。この誤りの防止のためにも、ブロックゲージをゲージ測定部億部に突き当たったところで90゜回転させ、奥部から入り口部にスライドさせながら抵抗感の変化を感知する必要があるわけです。
ゲージ測定部の入り口部の寸法が大きい場合は、抵抗なくブロックゲージが差し込まれ、一定の距離に差し込まれたところで抵抗を生じる、ということでテーパーが読みとれます。
実際のゲージ測定面はもっと複雑で、例えば、「歪み」「捻れ」「倒れ」とうの諸条件を有しています。
ブロックゲージを用いて「どこがどのように固いと感じるか」を丁寧に検定することによって、ゲージ測定面の諸条件がシュミレートできます。これは経験の蓄積が必要なことですが、基本は単純な大小判断の積み上げであることは明らかでしょう。
限界板ゲージの校正をユーザー自身が行うための技術的な説明
概説(新規製作ゲージの受け入れ検定を中心に)
限界ゲージ校正に必要な道具
●ブロックゲージ
ブロックゲージがないと校正できないことは言うまでもありませんが、ここで指摘するのは「保護ブロックゲージの要否」です。
ブロックゲージセットの精度保全の必要から、あらゆる場合に保護ブロックゲージを使用すべきことはもちろんであるわけですが、これには超硬製のものとセラミック製のものとがあります。
●オプチカルフラット
●アルカンサス砥石
ブロックゲージの補修のためのものですが、これが必要な場合という事例は稀だと思います。
●隙見
新規製作ゲージの受け入れ検査に際しては不要でしょうが、一定期間現場で使用してきたゲージを検査する場合にあった方が良い道具です。
通常、限界ゲージの磨損は、以下のような特性を持っています。
通り部入り口部分が丸く磨損する。
止り段差部分で被測定物が当たる箇所が磨損する。
止り部入り口部分が丸く磨損する。
被測定物が通過する部分が丸く磨損する。
これらを視認するためには透き見を使用することが最も簡便容易です。
隙見によって判別できる隙間寸法は2μm程度が限界です。
●作業用定盤
検査用である必要は特になく、作業しやすい大きさのもので十分です
校正作業の実際
ブロックゲージの使い方
第1に、寸法検定に関しては、限界ゲージの長手方向にブロックゲージの長手方向を合わせて、過小寸法から順次寸法を大きく組み替えながらブロックゲージを差し込んでいく、という方法が採られます。
この場合、ブロックゲージの寸法が小さければ何の抵抗も受けずにスカスカにブロックは通過します。ブロックゲージの寸法値が大きければ、ゲージ測定部に差し込めないか、差し込める場合でも一定の抵抗を受けます。ちょうどの寸法の場合には、滑るように限界ゲージ測定部に入り込みます。
『JIS B 7420』付表24に掲記されているゲージ部の測定方法はこのことを言います。
ただ、現実には、限界ゲージの測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、これだけでは検出できません。この場合には、限界ゲージの長手方向にブロックゲージの長手方向を合わせて差し込み、行き当たった所でブロックゲージを90゜回転させて、ブロックゲージの中央部を接触させつつ引き抜いていきます。引き抜きながら、抵抗感の変化を察知するわけです。
第2に、平行度検定に関しては、第1の場合に際して、丁度の寸法かややブロックゲージの寸法が大きいと判断できる場合に、限界ゲージの長手方向とブロックゲージの長手方向を合わせて限界ゲージの測定面全体がブロックゲージに接しているところから、そのままブロックゲージを回転(前後90゜づつ)させます。
限界ゲージ測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、その最も高いところ(寸法値が最も小さいところ)を中心にブロックゲージが回転することがわかります。正常な場合は、ブロックゲージを回転させた場合にも限界ゲージ測定面全体に接触していることが感知できます。
以上のことは、いわば限界ゲージの対向測定面の線平行度の良否を検定しているのですが、面平行度の検定もあわせて行います。
すなわち、丁度の寸法と思われる場合に、限界ゲージ測定面とブロックゲージを直交させた状態でブロックゲージを揺さぶります。限界ゲージの対向面の平行度があまい場合、「がたつき」が感知されます。この場合、最小寸法値とされるのはブロックゲージの寸法値ですが、今度は、限界ゲージ測定部の両サイドからブロックゲージを差し込みます。均等な抵抗感でブロックゲージが差し込めれば平行度は良いと言えますが、中途まで何の抵抗感もなく差し込めるようだと対向するゲージ測定面に傾斜が存していることを意味します。適切にブロックゲージの寸法を増やして、丁度と判断できるところを求めます。ブロックゲージの増し分が許容平行度内にあるかどうかで合否が判断できます。
ただし、限界ゲージの性格・機能上、平行度は0(ブロックゲージでは面の「倒れ」「捻れ」「歪み」「うねり」が検出できないという状態)が望ましいことは言うまでもありません。
上記の説明から、限界ゲージの検定作業とは熟練を伴った官能検査ではないのか、という印象を持たれるかも知れません。しかし、限界ゲージの測定部の寸法値とブロックゲージの寸法値が一致しているという判断は物理的な事実判断の問題であって、通常の意味用法における官能検査とは言えません。
検定作業は手早くする必要があります。ブロックゲージや限界ゲージを長く握り込んで温度変化に対する注意が疎かになりがちです。
写像から限界ゲージ測定面の面性状を判別する
ゲージ測定面に「捻れ」「歪み」「うねり」が存している場合、ブロックゲージに頼るまでもなく、目視で判定され得ます。ゲージ測定面がラッピング仕上げされていて鏡面(もしくはそれに近い状態)の場合、任意の適切な像を映せば、その歪みから判断されます。
限界ゲージ測定面とブロックゲージ面とがリンギングする
教科書にも触れられることはないのですが、検定に際して、ゲージ測定面とブロックゲージとの間でリンギングするということがあります。(経験的には#3000のWAでラッピング仕上げしたものでリンギングを実現できます。)
具体的にはどうなるかというと、1μm手前の(小さな)ブロックゲージを差し込むとガタガタで明らかにブロックゲージの寸法値が小さいことが明確なところ、もう1μm大きなブロックゲージを差し込むととたんに大きな抵抗に出会います。ブロックゲージの寸法値を徐々に増やしていっても、丁度と良いという境界値に出会わないのです。
メーカーが添付してきた検査成績書記載の実寸法値のブロックゲージを組んで検査したところ、明らかに大きな抵抗を受ける。ゲージの寸法値が小さいのではないか、というわけです。
このような事象を回避するためには、ある程度の油成分を限界ゲージ測定部とブロックゲージ面に持たせて検定すれば良いのですが、例えば、オプチカルフラットを限界ゲージ測定面に当ててみるとか、小寸法のブロックゲージを接着させてみるということもやってみる意味はあります。
なお、縦目(ゲージの長手方向と一致する仕上げ方法)ではリンギングするまでの測定面は作れず、横目(ゲージの長手方向と直角に交差する仕上げ方法)のハンドラップ仕上げにおいてのみ可能です。ただし、リンギングするほどの面性状に仕上げされているゲージが本当に良いゲージであると皆に歓迎される、と言い切れないところが辛い点です。
ブロックゲージによる検定における実際
適正な平行度が保証されているゲージ測定部に、その寸法値よりわずかに大きなブロックゲージを差し込んだ場合、ブロックゲージはゲージ測定部を「押し拡げる」ように作用しますから、感覚的には「奥の方が固い」ように判断されがちです。もっとも、ゲージ測定部とブロックゲージの寸法値に1μmの差があれば、ブロックゲージを差し込もうとする場合には大きな抵抗がありますから、それ以前に大小判断は明白です。
この点から、ゲージ測定部がわずかにテーパーがかかっている場合、例えば、入り口部の寸法が小さな場合、ブロックゲージを差し込んでいくと、測定部全域で「均等な抵抗感」が認められ、そのため「平行度は良好でわずかに寸法が小さい」と判断される場合があります。この誤りの防止のためにも、ブロックゲージをゲージ測定部億部に突き当たったところで90゜回転させ、奥部から入り口部にスライドさせながら抵抗感の変化を感知する必要があるわけです。
ゲージ測定部の入り口部の寸法が大きい場合は、抵抗なくブロックゲージが差し込まれ、一定の距離に差し込まれたところで抵抗を生じる、ということでテーパーが読みとれます。
実際のゲージ測定面はもっと複雑で、例えば、「歪み」「捻れ」「倒れ」とうの諸条件を有しています。
ブロックゲージを用いて「どこがどのように固いと感じるか」を丁寧に検定することによって、ゲージ測定面の諸条件がシュミレートできます。これは経験の蓄積が必要なことですが、基本は単純な大小判断の積み上げであることは明らかでしょう。