分類:ハサミゲージの世界

板ゲージの校正:定期校正

定期校正(異状発見と校正証明)

限界ゲージの定期校正

1.「校正」の意味
 「校正」とは国家基準とのトレーサビリティを実現していく作業をいう、と取り敢えずは定義できそうですが、実際上は、何を検定しているか、何のどこを検定しているか、という点がもっと明確にされなければならないと思っています。
 外径用板ゲージの場合を例にとりますと、ゲージの本来具有すべき精度条件として、①ゲージ測定面の平面度が保証されていること、②ゲージ測定面の平行度が保証されていること、③ゲージ測定面が実現している寸法値が保証されていること、という3点が指摘されますが、当初(新規製作時)からどの程度「逸脱」しているかを経年的に観察・検定していくのが「定期校正」の主要な意義と言えると思います。
 実際には、経年的に(生産現場で使用されるに従って)は、磨損・発錆等による平面度の劣化が生じ、摩耗や外力付加に伴って平行度の狂いが生じ、総じてゲージ測定部の実現寸法値が変移していく、ということが予見できます。「校正」とは、これらの経年的な変移を、諸変移原因の総体的な帰結としてのゲージ測定部の実現寸法値を検証する、ということを意味しています。ということは、寸法変移の結果をもたらせた諸原因を改めて追及しない限り、寸法変移の原因の所在・偶発的な事故に拠るものが固有の原因の必然的な発現であるのか、等が把握され得ないわけです。
 一方、そこまで徹底した検定はコスト的に引き合わない、とか、寸法値校正による管理で充分だ、という意見もあることは確かです。
 従って、ここでは、以下に問題点を指摘し、ユーザー側の業務の参考に献じたいと思います。

2.ゲージ測定面の平行度の問題
 図1は磨損状態を示す概念図ですが、赤線で示した部分が磨損していることを表しています。
 このような状態になっている外径用限界ゲージの通り部の寸法検定では、平行度に狂いが生じてなければ、磨損部分をのぞく部分の寸法値が検出されます。ゲージ先端が狭まっている(ゲージ部が閉じる傾向性にある)場合、先端部の寸法値が検出されます。ゲージ先端が拡がっている(ゲージ部が開く傾向性にある)場合、通り部後端の寸法値が検出されます。
 この最後の場合が問題で、通り部最奥部という被測定物と接しない部分の寸法値が検出されているわけですから、実体的には、いかに磨損しているゲージであってもその状態が検定値に反映されてこない、という問題が存しています。また、磨損がない場合でも、ゲージ部が開いているという場合、検定値としては検定公差上限以下であるから合格だと判定しても、有効長さ部分では検定公差上限を超過しているかも知れない可能性が残ります。
 従って、ゲージ部の平行度検定は、ゲージ測定部寸法の測定の「適正さ」を保証するものとして、大切なものとなります。特に通止の段差が大きく、通り部長さ-有効長長さ の値が大きくなるに従って無視できなくなります。

 ゲージの校正において、検定値はゲージ各部の『最小値』であるとされているのが一般的ですが、その「最小値」を示すゲージの具体的な箇所は明示されるべきでしょう。

3.検定値の解釈について
 ここでいう「検定値の解釈」は、ゲージ平行度のデータまで検出されている場合に限定されます。
 データは様々なことを物語る、とか、データこそが諸事象の数値表現である、とか、いろいろな分野で語られていますが、ゲージ校正の場合も例外ではありません。

ゲージ通り部先端の寸法値が小さくなっている
  ①止り部の寸法値に顕著な変化が認められない場合、あるいは
   止り部に開く方向でのテーパーが生じている場合
      ゲージ測定部の焼き入れ部分の経年(応力)変化
  ②通り部のテーパー率と止り部のテーパー率がほぼ同じ場合
      何らかの外力が加わって、ゲージ部が狭まった
ゲージ通り部先端の寸法値が大きくなっている
  ①止り部の寸法値に顕著な変化が認められない場合
      検定時の取り扱いの過誤による磨損
  ②通り部のテーパー率と止り部のテーパー率がほぼ同じ場合
      過大な被測定物に無理な力でゲージを差し込んだためのゲージの「開き」
ゲージ測定部に磨損はないが寸法変化が認められる
  ①ゲージ本体に何らかの原因で「歪み」を生じた
  ②ゲージ本体に何らかの原因で「捻れ」を生じた
  ③ゲージ製作時に蓄積された内部応力が徐々に解放されてきた
  ④ゲージ使用中に打撃・衝撃が加わった

 以上のようにおおよそはまとめることができますが、もちろん、原因・結果の諸事例は以上に尽くされるものではありません。

 従って、ユーザー側で原因・理由を追及できるものと、ゲージ製作者側で原因・理由が追及できるものとがありますが、いずれにせよ、メーカの製作手順とユーザーの使用管理手順が相互に明らかにされていることで検定値の解釈はずっと素直なものとなることは疑いありません。

板ゲージの校正:定期校正:図1