分類:よもやま話

SUS420J2製ハサミゲージ

 SUS420J2製ゲージを商品化できたのは1997年からのことですから、もう10年以上になっています。
 「防錆」という問題の解決が必須な事情がありました。

 それ以前には、ゲージ全体をクロムメッキを施して、ゲージ測定面のメッキ層は除却して仕立て上げるという方法を専らにしてきていたのですが、ゲージのごく一部の防錆措置もなかなか煩瑣なことになるらしく、ともすれば発錆を招いていたわけでした。
 もう一つの方法として、ゲージ全体に硬質クロムメッキを施して、その硬質クロムメッキ層の厚さの範囲内でゲージ寸法を仕立てるという方法も採用しましたが、その仕上げ余地を大きく取ろうとすれば、メッキ厚み自体が全体では不均等なものですから、なかなか精確な仕上げ寸法とはなり難い。メッキ前に、そのメッキ層の厚みを勘案して一旦仕上げ、メッキ後にはまた最終的な仕上げをするという、言わば「二度手間」が掛かりますから、高コストにならざるを得ません。

 それで、結局は、単純に焼き入れ可能なステンレス鋼が採用できれば、問題は解決してしまうわけです。

 もっとも、ステンレス鋼を採用すれば単純に問題が総て解決するというわけではなかったわけです。

 防錆の問題としては。
 鉄鋼材料の発錆には、そのカーボン成分が大きく作用するわけですが、ステンレス鋼の場合、焼き入れを可能とするためにはカーボンを含ませる必要があり、カーボンが含まれれば発錆原因を抱え込むことになるという、二律背反的なことになります。
 従って、カーボン分を含まないSUS304とかの材料に比べて、SUS420J2では「絶対に錆びないか?」と言えば「錆びないとは言い切れない」という結論になります。
 しかしながら、ステンレス鋼の防錆能力というのは、煎じ詰めれば、材料表面の酸化クロム層が如何に適切に形成されるか、に集約されますから、その旨を込めた製作手順が確定できれば良いということになります。この点について選択すべき措置方法は幾つかありますから、ゲージの使用に際してさほど神経質になる必要もないわけです。
 よく言っていることは、「SUS420J2もしくはそれに準拠したステンレス製品である『ノギス』が錆びますか?」ということです。測定機器類・工具類には、既に広く採用されている素材であるわけです。
 どうしても錆一つ発生してはならないということであれば、SUS420J2製ゲージ全体に硬質クロムメッキを施すという方法(ゲージ測定面はメッキ層が除却されて、SUS420J2というベース面が露出するということですが)が採れるわけですが、メッキをしなくても、ベースの酸化クロム層は十分強度を保ち得るわけです。

 材料強度の問題。
 よく心配されることは、ステンレス鋼は柔弱な素材だから、ちょっと乱暴に扱われた場合、よく変形する(寸法変位をきたす)のではないか、という点です。
 世間では、SK材製のハサミゲージででも「総焼き入れ」でないといけないとされるケースもよくあるようですが、そこで憂慮される原因・理由については、私は疑問を抱いてきているのですが、その点はともかくとして、材料強度の点に限って言えば、ナマ材か焼き入れ材かという二者択一の考え方には立っていません。ナマ材から焼き入れ硬化に至るまでの「中間段階」があるだろうと言うわけです。
 総焼き入れをしてしまうと、例えば焼き入れの際に「曲がり」や「反り」が生じた場合、平面研削で是正できる程度ならともかく、そうでなければ、ガソリン・バーナー等で焼き戻しをかけて、その「曲がり」や「反り」を直すということがされてきましたし、あるいは、プレスで強引的に直すという手法も採られています。焼き入れたものはもう狂わないというのではなくて、ナマ材であろうと焼き入れ材であろうと、内部応力を原因とする寸法変位は避けられないことになりますから、こういった是正方法は、わざわざ寸法変位の原因を付加しているようなことになりかねません。
 当方の材料強化の措置方法で、特に問題は生じて来てはいません。
 なお、この点については、鉄鋼材料学や熱処理の教科書等で論及されている問題で、何も「経験」と「勘」によるものではありません。

 以上の2点を特に踏まえて、ゲージの仕様条件が決まります。

 SUS420J2の素材は、圧延の関係で、幅300mmが限度ですので、その範囲内で作れる形状のものはステンレス対応が可能となります。

 SUS420製ゲージの仕上げ方法については、別の機会に説明します。

SUS420J2製ハサミゲージ:図1

基準寸法50mm以下のものは、JIS B 7420 で例示されている仕様に準拠しています。 

SUS420J2製ハサミゲージ:図2

基準寸法50mmを超えるものは、いわゆる「C型」になります。
通止の段差が大きいものは特に通り部長さを伸ばさないと、被測定物の計の頂点を超え得ないゲージになってしまいます。
これでは意味がありません。
通り長さはどれ位でないといけないかは計算で算出できますから、その数値に基づいて、全体の形状が決まります。
材料強度の強化に伴い、かなりスリムな形状仕様に出来ています。