分類:ハサミゲージの世界

ステンレス製ゲージの特質

開発の機縁は、ユーザーサイドでのゲージの保守管理が不十分な場合、ゲージ測定面における発錆が回避し難い、という点の解決が求められたためです。

通例、この問題に対しては、硬質クロムメッキを施すことで対処されてきました。
製作工程としては、施されるべき硬質クロムメッキ層厚みを予定して仕上がり寸法よりも少し大きめに下仕上げを行い、硬質クロムメッキを行った後にメッキ層の不均等さを補正しつつ寸法仕上げをするという経過を辿るため、仕上げ工程が2回となるためにコストがかかるという問題と、硬質クロムメッキ層厚みが期待したほども正確にコントロールされていないという問題とがあって、適正・正確な仕上がり精度を実現することが困難でした。
特に板ゲージの場合、栓ゲージやリングゲージの場合とはまったく違って、薄板の内側端面(ゲージ測定面)に正確なメッキを要求すること自体に無理があるわけです。従って、メッキ技術によって改善を図ろうとすることは、技術的・経済的にかなりな無理を生じます。

ステンレス材の採用に当たって、焼き入れ硬度の問題と、《材料強度》の問題があります。

SUS420J2の場合、焼き入れ硬度は理論上の上限としてHRc56とされています。
炭素工具鋼での焼き入れ硬度が少々甘かった場合と同様という理解もできる水準ですが、耐摩耗性は優良ですから、それで十分と判断されるか否かはユーザーサイドの判断に拠ります。

《強度》の問題というのは、俗に言う「材質としての腰の強さ」のことなのですが、使用目的あるいは使用条件との相関において判断されるべきものであり、炭素工具鋼との単純な比較で判断されるべきものではないと思えます。
いわゆる「JIS仕様形状」に準拠して、特に問題は生じません。

ユーザーの求めにより、場合によっては「補強」を考慮する必要が生じます。「補強」は、コストとの兼ね合いがありますが、熱処理により実現されます。

なお、製作完了後には防錆のため《不働態化処理》を行います。
《不働態化処理》というのは、ステンレス材表面に酸化クロム層を確実に生成させて、鉄と酸素との結合を遮断させるものですが、これには3つの方法があります。
1つは、「酸化酸」にワーク全体を浸漬けして表面全体に強制的に酸化クロム層を生成させる方法。もっとも単純な、分かりやすい方法です。但し、処理時間を要します。そこで、2番目の方法として、電気化学的な装置を用いて、短時間に処理する方法。3番目には、ワーク表面を微細に磨き上げる方法。
マルテンサイト系ステンレス鋼の場合は、以上の3つの方法を使い分けて行けば十分だと思います。