分類:よもやま話

ダイヤモンド砥粒の話

 ダイヤモンドは、この地球上では最も硬いとされている炭素の結晶体であるから、ラップ用の研磨砥粒として活用すれば、かなりなラップ効率が図れるだろうという「期待」が生じる。
 事実、ほとんどの作業者は、ダイヤモンド砥粒の採用を試行し、あるいは、常用されていることだろうと予想されるわけである。

 当然なことながら、私も利用を図ったことがある。

 写真(上)は油性のもので、現在ではいろいろな供給元から市販されている。

 砥粒が油で練り込まれているわけだが、この油の潤滑性能がハンド・ラップに際しては適性があるわけではなく、かなり使いづらいものとなる。
 そのため、ハンド・ラップ用ではなくて、定盤上に塗布してワークをそこに押しつけるという、いわゆる「定盤ラップ」の場合に専ら使用している。

 ハンド・ラップの場合には、やはり、写真(下)の砥粒自体を使用して、ハンド・ラップの用途に適した潤滑油(「ラップ油」)を独自に工夫するようにするとうまくいく。
 砥粒そのものも、写真のように各社から市販されていて、それぞれ何がどう違うかという検証をしてみると面白い結果が出て来そうではあるのだが、天然ダイヤモンドか合成のものか、単結晶か多結晶か、分級の精度はどうか、といったいろいろな要素が絡んでくる問題ではある。

 ダイヤモンド砥粒を使うという場合は、言うまでもなく、遊離砥粒ラップ/湿式というラップ技法になるわけなのだが、この技法でのラップ能力というのは「砥粒の自己破砕によって次々と新しい切り羽が自生してくるためにラップ能力が高い」と説明されている。
 この説明は、確かに、WAとかGCの砥粒の場合をよく説明しているのだが、ダイヤモンド砥粒の場合に同じことが言えるかと考えてみると、当然のことながら「自己破砕性」というものは認められないため、ダイヤモンド砥粒それ自体の「硬さ」がラップ能力を決定しているということになるだろう。
 
 つまり、ダイヤモンド砥粒を使う場合のラップというものは、第一次的には、硬いダイヤモンド砥粒粒子がワーク表面を滑走することによってワーク表面を光らせるというか、艶出しをする。第二次的には、ダイヤモンド砥粒の切り羽がワーク表面に刺さり込んで、そのままワーク表面を削ぎ取る。こういうメカニズムになっているだろうと想定できるところ、切り羽をワーク表面に「刺さり込ませる」ためにはかなりな加圧力を負荷しなければならず、ワーク表面を「削ぎ取る」ためには、その抵抗を押し切っていくだけの力を賦課しないといけない。

 ハンド・ラップの場合、それだけの加圧力なり力を賦課するということはかなりな重作業になるため、結局は、ワーク表面を「艶出し」するに止まるということに終始する。

 このような場合、ワークの下地処理で、例えば#6000~#10000で仕上げておけば、ダイヤモンド砥粒での「艶出し」はひどく容易で簡単なことになる。逆に言えば、#6000~#10000でワーク表面を仕上げることが出来ていれば、その場合の面粗度条件に基づけば、何もわざわざダイヤモンド砥粒で「磨く」「艶出し」をするということは全く必要性がなくなる。
 つまり、結論づければ、例えばWA砥粒#3000以下の粗い砥粒で下地仕上げをしておいて、ダイヤモンド砥粒を使って鏡面仕上げをするという場合と、ダイヤモンド砥粒を使わずに、#6000~#10000で最終仕上げをやり切ってしまうことと、どちらが効率的で信頼性の高い仕上げ方法か、という選択の問題になる。

 私自身の場合は、技術・技能のテーマの一つとしてダイヤモンド砥粒を使っての遊離砥粒ラップ/湿式という技法で、0.5μm砥粒を実務化したわけだったのだが、この場合の欠陥として、ブロックゲージを酷く損耗させる。超硬製保護ブロックゲージを使用するわけなのだが、超硬材というものは、その性質上、ダイヤモンド砥粒での湿式ラップに対しては損耗の度合いがひどく大きなものであるから、気休めにもならないことになる。

 ダイヤモンド砥粒ラップの技法を放棄した所以である。

ダイヤモンド砥粒の話:図1

 この「油」の実体は何かと問い合わせても、もちろん答えては貰えませんが、別売の「希釈駅」でその効用を調整するんだということでした。
 定盤ラップの場合には、このままで使用しても上手くいくわけですが、ハンド・ラップの場合ではその油膜の膜面が硬すぎるということです。 

ダイヤモンド砥粒の話:図2

 単結晶のものを主に使うわけですが、ハンド・ラップの場合、多結晶のものは実は使いがたい。
 多結晶の粒子それ自体を、ラップ工具表面は巧くグリップできないのではないかと疑うわけです。
 メーカーの資料によると、単結晶の砥粒はワーク面に対してダメージを与えるおそれがあるということですが、ハンド・ラップの場合は、どう足掻いてみても、そこまでの加圧力でもって仕事をするわけではありませんから、多結晶であるべき理由が見つかりません。