分類:ハンドラップ技法について

「砥石ラップ」の意義

「砥石ラップ」という名辞は、勿論、言うまでもなく、固定砥粒ラップ」そのものであるのだが、①WA砥石を使ったものである、従って、②SK工具鋼製ゲージに対するラップ工具でありラップ技法である、しかしながら、③そのままではハサミゲージとして必要とされる面粗度や平面度が実現できるものとはならない、というものである。

実際の工具の作り方は左欄に写真を掲載しておくが、①WA砥石としては、砥粒粒度は#1200が最も妥当なようで、#600程度だと平面度等が劣悪になり、#1200よりも微細なものとなると目詰まりが激しくて持続的なラップ作業が難しくなる。砥石硬度はRH80程度の固めの砥石を使う。
普通の場合、焼き入れ鋼に対してはRH60前後の砥石硬度が妥当とされているのだが、WA砥石のラップ力というのは、砥石表面から剥離したWA砥粒が実質的に「遊離砥粒ラップ/湿式」の作用を発揮するということに基づくものであるから、砥石表面の平面度が直ぐに崩壊していってしまう。そのため、ある程度の砥石硬度が必要なのだが、過度に硬度が高いものは切り込み力に欠けることになる(遊離砥粒分として砥石表面から剥離してくるWA砥粒が過少になってしまう)。

砥石ラップの工程というのは、作業効率の向上を目指すものであるのだが、砥石の目詰まりの解消、砥石表面の崩壊の是正としての砥石目立て、といった作業を伴う。
つまり、砥石表面がどのように仕立て上げられていなければならないかを不断にに意識しないといけない作業であるから、ラップ技能を修得していく際の準備コースだとも言える。
#1200の砥石ラップで寸法を仕立て上げることができれば、言い替えると、寸法だけが問われる場合であれば、±2μm程度の曖昧さは付きまとうことになるのだが、それで出来てしまうという話になる。

砥石ラップと、遊離砥粒ラップ/湿式という正規なハサミゲージの仕立て上げ技能で制作されたものとの違いが、前者では砥石砥粒の研磨痕が残るのに対して、後者では、技法特有のラップ痕になって特有の「艶」が発現してくる。
技法の違いというのは一目瞭然なのである。

なお、「ハンド・ラッパー」として、ボロン・カーバイト砥石を使ったラップ工具が一般市販されている。焼き入れしたSK工具鋼に対してのラップ能力は、WA砥石の場合よりも卓越しているとは評価できないので、従って、私自身としてはラップ目的には使えない。ラップ用途として具体的にどういう使い方があるのか、よく分からないものである。
ただ、ボロン・カーバイト砥石は別に説明することになるが、砥石の成形には極めて有効である。