分類:よくある質問
ハサミゲージの製作公差
限界ゲージ方式とハサミゲージの製作公差
限界ゲージ方式とは、「嵌め合い」の互換性を確保・保障するために考え出された方式です。
この「嵌め合い」の程度は、JISでは、穴と軸についてそれぞれ寸法許容差が公差等級ごとに定められており、それに基づいて穴用ゲージ(栓ゲージ)・軸用ゲージ(リングゲージ・ハサミゲージ)の製作公差が定められています。
公差の考え方は単純明快で、基準寸法値に対して穴用はプラスに、軸用はマイナスに定めるということで、要するに穴に軸が間違いなく挿入できるように定められています(だから「嵌め合い」と言われています)。
繰り返し強調しますが、JISで定められている限界ゲージ方式は、「嵌め合い」に適用されることを前提としています。
以上のことが、いわば、教科書で学ぶ「限界ゲージ方式」の要点です。
ところが、限界ゲージを量産加工品の「互換性」の確保・保障のために採用する場合、つまり、「嵌め合いでの互換性」ではなく純然たる「互換性」の確保・保障のために採用する場合、JISの規定の採用は必ずしも適切でない場合が生じます。(教科書では、限界ゲージ方式の説明を通じてJIS規定を使いこなせるようにする目的からか、この部分の説明はほとんどなされていません。)
すなわち、ある部品の寸法値を32±0.5としたい、この寸法範囲内で生産品の寸法値を揃えたい、という場合。
JISの規定(実際にはJMASの規定に拠りますが)では、IT値は「15」であり、この規格に対応するハサミゲージの製作公差は
通り 基準寸法 32.50 上限:-67.5μm 下限:-92.5μm
止り 基準寸法 31.50 上限:+12.5μm 下限:-12.5μm
となります。概ね最小寸法にゲージを仕上げた場合、通り:32.408 止り:31.488となります。
これは何を意味するかと言えば、寸法許容範囲を絞ったところで合否判定が行われ、例えば、32.45という寸法となった製品は、本来なら規格範囲を充足したものであるにもかかわらず、ゲージでは不合格とされることになります。あるいは、例えば、31.49という寸法となった製品は、本来なら規格範囲をハミ出しているものであるにもかかわらず、ゲージでは合格とされることになります。
このような事態をユーザーが正しく認識して許容されているか、という問題があります。
ユーザーが期待しているのは、32±0.5という寸法許容差が守られ、かつ、この範囲内にある生産品はもれなく合格となるような検査システムでありましょう。そうであるならば、ゲージの製作公差も例えば以下のものとすべきことになります。
通り 基準寸法 32.50 上限:-5μm 下限:-10μm
止り 基準寸法 31.50 上限:+5μm 下限:-0μm
従って、ゲージの製作公差は、安易にJISの規定による(規格の流用)のではなく、ゲージが適用される生産品の性格(嵌め合い品かそうでないか、JISあるいは業界指針もしくは社内規格による寸法許容差の趣旨、生産精度能力等々)を踏まえて、ユーザー自らが指定・指示されるべきものだと言えます。
なお、ユーザー側から特にゲージの製作公差の指示がなければ、JIS規定に従ってゲージは製作されます。
ハサミゲージの製作公差と実際の製作
例えば25h7の外径用板ゲージ(ハサミゲージ)を製作しようとする場合、
基準値 通り側(0) 止り側(-21)
製作公差 通り側 -1.0/-5.0 止り側 +2.0/-2.0
となりますから、通り側を24.999~24.995、止り側を24.981~24.977に仕上げればよいことになります。
通常よくある発想として、粗めの砥石等で効率よく下仕上げをした後、ラッピング仕上げでその砥石目を消したところがゲージの製作公差内であった、というのが永年にわたる熟練の技であるかのように語られるようです。
しかしながら、この発想では、予想以上に砥石目が深くて、それを取りきると寸法が大きくなり公差範囲をはみ出してしまった、ということが往々にして起こります。つまり、公差範囲内でうまく仕上がるかどうかはかなり偶然(幸運?)に左右されるものとなりがちです。
また、公差範囲が非常に厳しい高精度な場合(IT5やIT/6の場合)、最初から無理だと断念するか、あるいは、多少粗い研磨痕が残ってもやむを得ないとするか、いずれにせよ対応が不充分なものに終始します。
そうではなくて、私の場合は、上記の例の場合、仕上がり寸法を24.995にすると決めて仕上げの手順と仕上げの方法を選択するようにしています。
このメリットは、①仕上げ過程において何が効率化のポイントになるかがはっきりとします。②ゲージの製作公差の範囲が厳しいか緩やかであるかに関係なく目標とする寸法値に仕上げることができ、すべてのIT値において同一の技術で対応できます。従って、品質管理が徹底します。③結果として、ゲージ1個あたりの仕上げに要する時間を事前に予測することができ、工程管理を確実なものとすることができます。
実は、ゲージの製作技術(ハンドラッピング技術)は戦時中をピークとし、戦後の高度成長期にそれぞれの職人が自分なりに改善を加えて今日に至っているわけですが、問題は、工業生産(軍需生産)における基礎技術であり汎用技術であるべきものがそれぞれの改善により属人化された手業に帰してしまい、伝承が非常に困難になってしまっています。また、運良く伝承に成功した場合でも改革改善の方向が見出せず、ひたすら伝承を墨守するに終始している状態であると言っていいかも知れません。
JISにおいても、ゲージの製作で対応できない規格を定めても意味がないためにIT5以上を規格からはずしたりしていますから、ハサミゲージに関しては事態は深刻でしょう。
さて、私の場合、ゲージの製作公差内において通り・止りとも原則として最小値に仕上げます。
これは、はめあいのゲージ等で特に明確になることですが、幾分小さく製作された軸(被検物)であってもJIS公差内のものである限りはゲージで合格させるためです。
問題になるのは、公差範囲があまりに大きい場合です。この場合はJISの規定する公差範囲内において、小さく作るか基準値に近づけるか、ユーザーの希望条件を聞くことにしています。これは、JISの規定する公差は「工作用」としての公差であるわけですが、実際には「検査用」にも兼ねることを期待するユーザーの意向があるからに他なりません。
限界ゲージ方式とハサミゲージの製作公差
限界ゲージ方式とは、「嵌め合い」の互換性を確保・保障するために考え出された方式です。
この「嵌め合い」の程度は、JISでは、穴と軸についてそれぞれ寸法許容差が公差等級ごとに定められており、それに基づいて穴用ゲージ(栓ゲージ)・軸用ゲージ(リングゲージ・ハサミゲージ)の製作公差が定められています。
公差の考え方は単純明快で、基準寸法値に対して穴用はプラスに、軸用はマイナスに定めるということで、要するに穴に軸が間違いなく挿入できるように定められています(だから「嵌め合い」と言われています)。
繰り返し強調しますが、JISで定められている限界ゲージ方式は、「嵌め合い」に適用されることを前提としています。
以上のことが、いわば、教科書で学ぶ「限界ゲージ方式」の要点です。
ところが、限界ゲージを量産加工品の「互換性」の確保・保障のために採用する場合、つまり、「嵌め合いでの互換性」ではなく純然たる「互換性」の確保・保障のために採用する場合、JISの規定の採用は必ずしも適切でない場合が生じます。(教科書では、限界ゲージ方式の説明を通じてJIS規定を使いこなせるようにする目的からか、この部分の説明はほとんどなされていません。)
すなわち、ある部品の寸法値を32±0.5としたい、この寸法範囲内で生産品の寸法値を揃えたい、という場合。
JISの規定(実際にはJMASの規定に拠りますが)では、IT値は「15」であり、この規格に対応するハサミゲージの製作公差は
通り 基準寸法 32.50 上限:-67.5μm 下限:-92.5μm
止り 基準寸法 31.50 上限:+12.5μm 下限:-12.5μm
となります。概ね最小寸法にゲージを仕上げた場合、通り:32.408 止り:31.488となります。
これは何を意味するかと言えば、寸法許容範囲を絞ったところで合否判定が行われ、例えば、32.45という寸法となった製品は、本来なら規格範囲を充足したものであるにもかかわらず、ゲージでは不合格とされることになります。あるいは、例えば、31.49という寸法となった製品は、本来なら規格範囲をハミ出しているものであるにもかかわらず、ゲージでは合格とされることになります。
このような事態をユーザーが正しく認識して許容されているか、という問題があります。
ユーザーが期待しているのは、32±0.5という寸法許容差が守られ、かつ、この範囲内にある生産品はもれなく合格となるような検査システムでありましょう。そうであるならば、ゲージの製作公差も例えば以下のものとすべきことになります。
通り 基準寸法 32.50 上限:-5μm 下限:-10μm
止り 基準寸法 31.50 上限:+5μm 下限:-0μm
従って、ゲージの製作公差は、安易にJISの規定による(規格の流用)のではなく、ゲージが適用される生産品の性格(嵌め合い品かそうでないか、JISあるいは業界指針もしくは社内規格による寸法許容差の趣旨、生産精度能力等々)を踏まえて、ユーザー自らが指定・指示されるべきものだと言えます。
なお、ユーザー側から特にゲージの製作公差の指示がなければ、JIS規定に従ってゲージは製作されます。
ハサミゲージの製作公差と実際の製作
例えば25h7の外径用板ゲージ(ハサミゲージ)を製作しようとする場合、
基準値 通り側(0) 止り側(-21)
製作公差 通り側 -1.0/-5.0 止り側 +2.0/-2.0
となりますから、通り側を24.999~24.995、止り側を24.981~24.977に仕上げればよいことになります。
通常よくある発想として、粗めの砥石等で効率よく下仕上げをした後、ラッピング仕上げでその砥石目を消したところがゲージの製作公差内であった、というのが永年にわたる熟練の技であるかのように語られるようです。
しかしながら、この発想では、予想以上に砥石目が深くて、それを取りきると寸法が大きくなり公差範囲をはみ出してしまった、ということが往々にして起こります。つまり、公差範囲内でうまく仕上がるかどうかはかなり偶然(幸運?)に左右されるものとなりがちです。
また、公差範囲が非常に厳しい高精度な場合(IT5やIT/6の場合)、最初から無理だと断念するか、あるいは、多少粗い研磨痕が残ってもやむを得ないとするか、いずれにせよ対応が不充分なものに終始します。
そうではなくて、私の場合は、上記の例の場合、仕上がり寸法を24.995にすると決めて仕上げの手順と仕上げの方法を選択するようにしています。
このメリットは、①仕上げ過程において何が効率化のポイントになるかがはっきりとします。②ゲージの製作公差の範囲が厳しいか緩やかであるかに関係なく目標とする寸法値に仕上げることができ、すべてのIT値において同一の技術で対応できます。従って、品質管理が徹底します。③結果として、ゲージ1個あたりの仕上げに要する時間を事前に予測することができ、工程管理を確実なものとすることができます。
実は、ゲージの製作技術(ハンドラッピング技術)は戦時中をピークとし、戦後の高度成長期にそれぞれの職人が自分なりに改善を加えて今日に至っているわけですが、問題は、工業生産(軍需生産)における基礎技術であり汎用技術であるべきものがそれぞれの改善により属人化された手業に帰してしまい、伝承が非常に困難になってしまっています。また、運良く伝承に成功した場合でも改革改善の方向が見出せず、ひたすら伝承を墨守するに終始している状態であると言っていいかも知れません。
JISにおいても、ゲージの製作で対応できない規格を定めても意味がないためにIT5以上を規格からはずしたりしていますから、ハサミゲージに関しては事態は深刻でしょう。
さて、私の場合、ゲージの製作公差内において通り・止りとも原則として最小値に仕上げます。
これは、はめあいのゲージ等で特に明確になることですが、幾分小さく製作された軸(被検物)であってもJIS公差内のものである限りはゲージで合格させるためです。
問題になるのは、公差範囲があまりに大きい場合です。この場合はJISの規定する公差範囲内において、小さく作るか基準値に近づけるか、ユーザーの希望条件を聞くことにしています。これは、JISの規定する公差は「工作用」としての公差であるわけですが、実際には「検査用」にも兼ねることを期待するユーザーの意向があるからに他なりません。